仕事術 28件の記事

需要の在処

中堅化粧品メーカー「彩花堂」のマーケティング部長・三島聡は、午後の会議室で壁一面のホワイトボードを見つめていた。そこには新規事業のコンセプト案が三つ並んでいる。いずれも、三島の上司である常務・大河内の肝いりで進めてきたものだ。 「若い女性の肌コンプレックスを喚起するSNSキャンペーンと連動した美白...
2026-02-20 01:19:39

拍手の設計者

瀬川拓人が「クラップ」を立ち上げたのは、二十八歳のときだった。 社内コミュニケーションツールに搭載した「拍手ボタン」は、同僚の仕事にワンタップで称賛を送れるシンプルな機能だった。メールで礼を言うほど大げさでもなく、何もしないほど冷たくもない。ちょうどいい距離感の承認——それが瀬川の着想だった。 ...
2026-02-19 23:09:10

三つの財布

経理部の水野真紀は、予算会議の資料を前に眉をひそめていた。 社員研修プログラムの年間予算が、昨年比で二割も増えていた。提案者は人事部の佐伯課長。水野が経理として異動してきてからまだ四か月、社内の力学はまだ読みきれない。だが数字の異常は見逃せなかった。 「佐伯さん、この外部講師の費用なんですが。一...
2026-02-19 10:37:44

一ミリの隙間

新製品の企画書を前にして、園田美咲は三度目のため息をついた。 マーケティング部の主任に昇進して半年。任されたのは、老舗食品メーカー「丸星フーズ」の新ブランド立ち上げという大仕事だった。美咲はこの仕事に全身全霊を注いでいた。企画書の文言を何十回も書き直し、プレゼン資料のフォントサイズを一ポイント単位...
2026-02-17 12:43:14

伝え方の温度

製造業の中堅メーカー・丸栄精機の品質管理課に着任した新任課長の桐生和也は、着任早々、部下たちの仕事ぶりに頭を抱えていた。  前任の課長が「のびのびやらせる」方針だったこともあり、報告書の書式がバラバラ、検査手順の省略も散見される。桐生は前職で徹底した品質管理を実践してきた自負がある。このままでは取...
2026-02-17 09:06:38

映える会議室

高木翔太が中堅Web制作会社・クロスフィールドの広報チームに異動してきたのは、三十二歳の春だった。  前任の広報担当が突然退職し、後任として白羽の矢が立った。社長の柴田から「うちのSNSアカウント、フォロワー三千人止まりだろう。一万人にしてくれ」と言われたのが最初のミッションだった。  高木はま...
2026-02-01 23:50:37

マニュアルの外側

総務部の吉岡真帆は、入社三年目にして社内規程の見直しプロジェクトのリーダーに抜擢された。三十二歳の彼女にとって、それは嬉しくもあり、重い任務でもあった。 きっかけは、社員アンケートだった。「社内ルールが多すぎて息苦しい」という声が、回答の四割を占めていた。服装規程、備品の使用ルール、会議室の予約手...
2026-02-01 17:33:12

エースの死角

営業部のエース、鳴海拓也は今期も全社トップの成績を叩き出していた。入社七年目、三十一歳。明るい笑顔、論理的な話術、そして誰もが認める行動力。クライアントからの評判も抜群で、「鳴海さんに担当してもらえてよかった」という声が社内に届くことも珍しくなかった。 だからこそ、鳴海には不満があった。 月曜の...
2026-02-01 16:41:05

十人の声

営業企画部の永瀬真紀は、自席のモニターに映った数字を見て、思わず唇を噛んだ。 参加申込数——七名。 生活雑貨メーカー「ハルノ工房」が初めて企画した顧客交流イベントまで、あと二週間。社内で大々的に告知し、SNSでも拡散したのに、反応はこの程度だった。 「永瀬さん、集まり具合はどうですか」 声を...
2026-01-30 11:35:37

休憩室の空席

総務部の村瀬洋介は、入社三年目にして初めて異動を経験した。営業企画部から経理部への配置転換。数字を扱う仕事自体に不満はなかったが、昼休みが苦痛だった。 経理部の休憩室には、毎日決まったメンバーが集まる。五人の女性社員と二人の男性社員。弁当を広げながら、社内の人事異動の噂や、上司の愚痴、週末のテレビ...
2026-01-28 16:24:39

失点の記憶

営業部の中堅社員、川島誠一は、三年前の記憶から逃れられずにいた。 当時、彼は新規事業チームのリーダーとして、会社の命運を賭けた大型プレゼンに臨んでいた。相手は業界最大手の製造会社。受注できれば、会社の売上は一気に三割増となる案件だった。 プレゼン当日、川島は完璧な準備をしていたはずだった。しかし...
2026-01-15 22:35:25

三百のメモ

佐伯誠一は、付箋の山を見つめていた。 パソコンのモニター周りに貼られた黄色い紙片は、もう数えきれないほどになっている。「顧客データの可視化ツール」「営業日報の自動要約」「新人研修のオンライン化」——どれも会議中や通勤電車の中で思いついたアイデアだった。 「佐伯さん、また増えましたね」 後輩の村...
2026-01-15 22:15:24

評論家の席

三十四歳の須藤健一は、営業企画部のデスクで資料を眺めながら、今日も何かが違うと感じていた。 大学時代は弁論部の部長として全国大会に出場し、入社後も三年連続で新人賞を受賞した。同期の中では出世頭と言われ、二十代の終わりには課長補佐に抜擢された。誰もが彼の将来を期待していた。 だが、三十歳を過ぎた頃...
2026-01-15 21:45:20

「とりあえず」の呪い

入社三年目の春、営業部の田村健太は上司の佐藤課長に呼ばれた。 「お前、今年の目標は何だ」 「えっと、とりあえず売上を伸ばしたいですね。まずは去年より上を目指します」 佐藤は眉をひそめた。 「とりあえず、か。まずは、か」 田村は何を言われているのかわからなかった。 「お前、その言葉を使って...
2026-01-15 17:20:06

谷底の営業部長

営業第三部の部長・宮本隆司は、自席のパソコン画面を見つめたまま動けなくなっていた。 午前中に人事部長から告げられた内容が、まだ頭の中で反響している。「来期の組織改編で、営業第三部は統合対象です。宮本さんには関連会社への出向を打診したい」 五十二歳。入社三十年。気づけば、会社に必要とされない人間に...
2026-01-13 22:13:20

ツキを呼ぶ男

総務課の窓際に座る五十嵐哲也は、社内で「ツイていない男」として知られていた。入社十五年、異動の話が出るたびに直前で白紙になり、担当したプロジェクトは軒並み頓挫し、昨年は財布を三回も落とした。 「また外れたよ、社内ビンゴ」 五十嵐がため息をつくと、隣の席の若手、河野が苦笑した。 「五十嵐さん、い...
2026-01-09 08:11:00

カメ組の名刺

入社七年目の春、藤原健一は自分のデスクで名刺を眺めていた。「営業三課 主任 藤原健一」。肩書きは三年前から変わっていない。同期の村田はすでに課長代理だ。 「藤原さん、会議室空いてます」 後輩の山下が声をかけてきた。今日は新規プロジェクトのプレゼン担当を決める会議だ。 会議室に入ると、課長の田中...
2026-01-08 17:21:00

地図のない航海

三崎誠一は、明和食品の営業企画部で三十二年間働いてきた。来月で五十七歳になる。 「三崎さん、例の件ですが」 隣の席の若手、田村が声をかけてきた。新規取引先との契約書類のことだ。三崎が下準備をし、田村が仕上げる。かつては逆だったが、役職定年で課長の肩書を外してからは、こうした補佐的な仕事が増えた。...
2026-01-04 07:28:57

「今日、何を聞いた?」

営業企画部の課長・高梨誠一は、部下たちの顔を見渡しながら額に手を当てた。 「なぜ誰も質問しないんだ」 新製品のマーケティング会議が終わった直後のことだった。本部長からの説明を聞いている間、高梨は何度か振り返った。だが、八人の部下は全員、無表情でメモを取っているだけだった。 「高梨くん、君のとこ...
2025-12-29 09:35:13

最後の一杯

青山の路地裏にある小さなバー「風見鶏」で、山崎達也は三十年間カウンターに立ち続けていた。 その夜、常連の大手広告代理店専務・川端が、いつもより早い時間に姿を見せた。 「マスター、いつもの」 川端はスツールに腰を下ろすと、乱暴にネクタイを緩めた。山崎は黙ってハイボールを差し出す。 「今日、つい...
2025-12-25 12:48:02

刺激の檻

営業部長の沢村誠一は、四十五歳にして自分が「永遠の新規開拓者」であることに気づいていなかった。 彼の営業成績は常にトップクラスだった。新しい顧客を獲得する瞬間、沢村の目は輝いた。初対面の緊張感、相手の懐に入っていく駆け引き、そして契約成立の高揚感。その快感を求めて、彼は次々と新規顧客を開拓し続けた...
2025-12-22 11:29:38

動かない迷路

企画部の須藤拓真は、会議室の窓から外を眺めていた。 午後三時。本来なら資料を作成しているはずの時間だ。しかし彼は、机の上に広げたノートを前に、もう一時間以上同じ場所に座っていた。 「須藤、まだ考えてるのか」 ドアを開けたのは、先輩の工藤だった。五十代半ば、入社以来ずっとこの会社で働いてきた人だ...
2025-12-20 23:06:40

静かな窓際の席

総務部の村瀬美咲は、今日も始業前にオフィスに着いていた。 誰もいないフロアで資料を整理する時間が好きだった。蛍光灯の微かな唸りと、空調の低い音だけが響く。その静けさの中でなら、頭の中が整理される気がした。 しかし九時を過ぎると、オフィスは一変する。キーボードを叩く音、電話の呼び出し音、隣のデスク...
2025-12-20 22:36:53

対等という距離

経営企画部の新人、水野翔太は、自分が優秀だと思っていた。 入社試験は二千人中三位。有名国立大学を首席で卒業し、在学中にはビジネスコンテストで全国優勝もした。周囲の同期と比べても、自分の能力が突出していることは明らかだった。 配属されたチームには、翔太のほかに三人のメンバーがいた。リーダーの木村、...
2025-12-20 15:30:40

残りの時間

総務部の佐藤健一は、五十二歳になった朝、自分の人生を振り返っていた。 入社三十年。与えられた仕事を真面目にこなし、大きな失敗もなく、課長という肩書きを手に入れた。だが、会議室の窓から見える景色は、三十年前と何も変わっていなかった。変わったのは、自分の髪が白くなったことくらいだ。 「佐藤さん、新人...
2025-12-20 13:48:03

これでいい

人事部の会議室で、山崎理恵は自分のプレゼン資料を見つめていた。 三十四歳。入社十二年目。同期の中では出世が遅いほうだ。今回の社内公募制度で、念願だった新規事業開発室への異動を勝ち取りたい。そのための面接が、明後日に迫っていた。 「山崎さん、資料見せてもらっていいですか」 隣のデスクの後輩、高橋...
2025-12-20 13:15:55

逃げない理由

営業部の片隅で、橋本浩介は両手で頭を抱えていた。 来週の大型プレゼンテーション。相手は業界最大手のクライアントで、獲得できれば部の売上目標を一気に達成できる。だが、競合は老舗の大手コンサルティング会社。勝率は良くて一割といったところだ。 「やめてもいいんじゃないですか」 背後から声がかかった。...
2025-12-20 10:51:45

熱くなれない人

営業企画部の村瀬は、三年目にして初めてプロジェクトリーダーを任された。新規サービスの立ち上げという大役に、周囲は期待の目を向けていた。 「村瀬さん、このプロジェクトにかける想いを聞かせてください」 キックオフミーティングで、部長の木島がそう水を向けた。会議室には八人のメンバーが揃っている。村瀬は...
2025-12-20 06:54:46