習慣化
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十秒の壁
三ツ木テクノサービスの二階、営業技術部のフロアには、島ごとに紙の城壁が建っていた。
保科遥はデスクの間を歩きながら、その高さを目で測った。去年より確実に伸びている。一年前、全社を挙げて「ペーパーレス推進」を掲げたはずだった。掲げて、三か月で崩れた。
「保科さん、また例の話ですか」
声をかけてき...
検問所
三ツ輪食品の企画部には、暗黙の作法があった。会議で最初に口を開くのは部長の郷田、最後にまとめるのも郷田。あいだの四十分は、頷きの時間だ。
柏木葉子は入社十四年目の課長代理で、その四十分の作法にかけては部内で一番の腕前だった。角度も、間の取り方も、心得ている。頷きながら、頭の別のところで「本当は違う...
遅れてくる拍手
生活雑貨メーカー「コハル製作所」の小さな企画室で、佐倉はノートパソコンの数字をにらんでいた。三か月前、満を持して世に出したカトラリーのシリーズ。削り出しの柄に、半年かけて磨いた曲線が宿っている。自信はあった。あったからこそ、画面の数字が刺さった。
販売数、先週ゼロ。今週も、ゼロ。
「いいものなん...
冷蔵庫に貼られた数字
「中学受験をしたい」
小学五年生の美咲がそう言い出したのは、夕食の片付けをしている最中だった。
中堅メーカーで営業部長を務める山本健一は、思わず手を止めた。妻の恵子も、食器洗いの手を止めてこちらを見ている。
「友達のあかりちゃんが塾に行き始めて、すごく楽しそうなの」
美咲の瞳は輝いていた。そ...
「とりあえず」の呪い
入社三年目の春、営業部の田村健太は上司の佐藤課長に呼ばれた。
「お前、今年の目標は何だ」
「えっと、とりあえず売上を伸ばしたいですね。まずは去年より上を目指します」
佐藤は眉をひそめた。
「とりあえず、か。まずは、か」
田村は何を言われているのかわからなかった。
「お前、その言葉を使って...