組織論 29件の記事

需要の在処

中堅化粧品メーカー「彩花堂」のマーケティング部長・三島聡は、午後の会議室で壁一面のホワイトボードを見つめていた。そこには新規事業のコンセプト案が三つ並んでいる。いずれも、三島の上司である常務・大河内の肝いりで進めてきたものだ。 「若い女性の肌コンプレックスを喚起するSNSキャンペーンと連動した美白...
2026-02-20 01:19:39

拍手の設計者

瀬川拓人が「クラップ」を立ち上げたのは、二十八歳のときだった。 社内コミュニケーションツールに搭載した「拍手ボタン」は、同僚の仕事にワンタップで称賛を送れるシンプルな機能だった。メールで礼を言うほど大げさでもなく、何もしないほど冷たくもない。ちょうどいい距離感の承認——それが瀬川の着想だった。 ...
2026-02-19 23:09:10

三つの財布

経理部の水野真紀は、予算会議の資料を前に眉をひそめていた。 社員研修プログラムの年間予算が、昨年比で二割も増えていた。提案者は人事部の佐伯課長。水野が経理として異動してきてからまだ四か月、社内の力学はまだ読みきれない。だが数字の異常は見逃せなかった。 「佐伯さん、この外部講師の費用なんですが。一...
2026-02-19 10:37:44

一ミリの隙間

新製品の企画書を前にして、園田美咲は三度目のため息をついた。 マーケティング部の主任に昇進して半年。任されたのは、老舗食品メーカー「丸星フーズ」の新ブランド立ち上げという大仕事だった。美咲はこの仕事に全身全霊を注いでいた。企画書の文言を何十回も書き直し、プレゼン資料のフォントサイズを一ポイント単位...
2026-02-17 12:43:14

伝え方の温度

製造業の中堅メーカー・丸栄精機の品質管理課に着任した新任課長の桐生和也は、着任早々、部下たちの仕事ぶりに頭を抱えていた。  前任の課長が「のびのびやらせる」方針だったこともあり、報告書の書式がバラバラ、検査手順の省略も散見される。桐生は前職で徹底した品質管理を実践してきた自負がある。このままでは取...
2026-02-17 09:06:38

映える会議室

高木翔太が中堅Web制作会社・クロスフィールドの広報チームに異動してきたのは、三十二歳の春だった。  前任の広報担当が突然退職し、後任として白羽の矢が立った。社長の柴田から「うちのSNSアカウント、フォロワー三千人止まりだろう。一万人にしてくれ」と言われたのが最初のミッションだった。  高木はま...
2026-02-01 23:50:37

正しい側の人

営業企画部の小野寺洋介は、自分が正しいと信じていた。 社内の人事評価制度が改定され、マネジメント経験よりもプロジェクト成果を重視する方針に切り替わった。結果、現場でプロジェクトを回してきた若手や中途入社の社員が次々と昇格し、十五年間コツコツと積み上げてきた小野寺は据え置きのままだった。 「これは...
2026-02-01 22:54:20

エースの死角

営業部のエース、鳴海拓也は今期も全社トップの成績を叩き出していた。入社七年目、三十一歳。明るい笑顔、論理的な話術、そして誰もが認める行動力。クライアントからの評判も抜群で、「鳴海さんに担当してもらえてよかった」という声が社内に届くことも珍しくなかった。 だからこそ、鳴海には不満があった。 月曜の...
2026-02-01 16:41:05

十人の声

営業企画部の永瀬真紀は、自席のモニターに映った数字を見て、思わず唇を噛んだ。 参加申込数——七名。 生活雑貨メーカー「ハルノ工房」が初めて企画した顧客交流イベントまで、あと二週間。社内で大々的に告知し、SNSでも拡散したのに、反応はこの程度だった。 「永瀬さん、集まり具合はどうですか」 声を...
2026-01-30 11:35:37

隣の席の距離

営業一課と営業二課の統合が決まったのは、六月の末だった。 業績の伸び悩みを背景に、会社は組織のスリム化を進めていた。統合後の新チームを率いることになったのは、営業一課の課長・片桐雅彦、四十二歳。部下は十二人になる。 片桐は統合初日、全員をひとつの島に集めた。デスクを寄せ、ホワイトボードを共有し、...
2026-01-29 16:43:58

休憩室の空席

総務部の村瀬洋介は、入社三年目にして初めて異動を経験した。営業企画部から経理部への配置転換。数字を扱う仕事自体に不満はなかったが、昼休みが苦痛だった。 経理部の休憩室には、毎日決まったメンバーが集まる。五人の女性社員と二人の男性社員。弁当を広げながら、社内の人事異動の噂や、上司の愚痴、週末のテレビ...
2026-01-28 16:24:39

会議室の王様

「また部長が暴走してますよ」 営業企画課の田村真紀は、隣の席の後輩・安藤に小声でささやいた。会議室のガラス越しに、腕を振り回しながら熱弁をふるう柳沢部長の姿が見える。 柳沢部長は、三年前に外部からヘッドハンティングされてきた人物だった。前職では中堅メーカーの営業本部長を務めていたという触れ込みで...
2026-01-15 23:46:33

失点の記憶

営業部の中堅社員、川島誠一は、三年前の記憶から逃れられずにいた。 当時、彼は新規事業チームのリーダーとして、会社の命運を賭けた大型プレゼンに臨んでいた。相手は業界最大手の製造会社。受注できれば、会社の売上は一気に三割増となる案件だった。 プレゼン当日、川島は完璧な準備をしていたはずだった。しかし...
2026-01-15 22:35:25

自分だけの物差し

営業部の月次会議が終わると、会議室には重い沈黙が残った。売上ランキングがスクリーンに映し出され、上位三名には拍手が送られる。一方で、下位に名前が並んだ者たちは、足早に席を立っていく。 入社三年目の川島翔太は、自分の名前が下から四番目に表示されているのを見て、小さくため息をついた。 「また、あの位...
2026-01-15 21:26:27

見えない天秤

「前例がないんですよ」 人事部長の声が、会議室に重く響いた。 総合商社・三栄物産の経営企画室で、主任の園田真由美は思わず拳を握りしめた。隣に座る同期の木村健太が、気まずそうに視線を逸らす。 議題は、次期プロジェクトリーダーの選出だった。 真由美と健太は同期入社。十年間、同じ部署で働いてきた。...
2026-01-15 19:41:43

再生回数の向こう側

瀬戸内動画制作株式会社の会議室で、企画部長の村山は腕を組んでいた。目の前のモニターには、新人クリエイターの高橋が提出した動画企画書が映し出されている。 「これ、本気で言ってるのか」 高橋は二十四歳。半年前に中途入社してきた。前職は飲食チェーンの店員だったが、個人で動画投稿を始めて小さな成功を収め...
2026-01-15 19:14:01

顔の向こう側

中堅IT企業ネクサスの人事部長・津田康彦は、最終面接に残った四人の候補者の履歴書を眺めながら、胃の辺りが重くなるのを感じていた。 新規プロジェクトのリーダー候補として、経営陣からは「将来の幹部になれる人材を」と厳命されている。しかし四人とも甲乙つけがたい経歴の持ち主だった。 「津田さん、ちょっと...
2026-01-13 18:05:39

誰の責任でもない場所

神田の雑居ビル三階に入居する「クイックマッチ・ジャパン」は、飲食店と配達員をつなぐマッチングアプリを運営している。創業四年目、登録店舗は三千を超え、配達員は一万人に迫ろうとしていた。 経営企画部の村瀬康平は、その日の朝から気が重かった。SNSで炎上していた。配達員が商店街で高齢者と接触し、軽傷を負...
2026-01-12 13:52:27

見えない重荷

神崎運輸の中堅ドライバー、村瀬誠一は今年で運転歴十五年になる。四トン車から始め、今では大型の十トン車を任されている。無事故無違反。それが村瀬の誇りだった。 「村瀬さん、今日の配送、三十分前倒しでお願いできますか」 配車担当の若い社員が申し訳なさそうに言った。荷主からの急な依頼だという。村瀬は黙っ...
2026-01-03 05:16:45

情報室の灯り

総合商社「丸和物産」の情報管理室は、本社ビル十八階の奥まった場所にあった。窓のない部屋に、青白いモニターの光だけが浮かんでいる。 室長の戸塚誠一郎は、この部屋で二十年を過ごしてきた。各国の政治経済動向、競合他社の動き、取引先の信用情報――あらゆるデータがこの部屋に集まり、戸塚の手で分析され、経営陣...
2025-12-31 14:34:15

「今日、何を聞いた?」

営業企画部の課長・高梨誠一は、部下たちの顔を見渡しながら額に手を当てた。 「なぜ誰も質問しないんだ」 新製品のマーケティング会議が終わった直後のことだった。本部長からの説明を聞いている間、高梨は何度か振り返った。だが、八人の部下は全員、無表情でメモを取っているだけだった。 「高梨くん、君のとこ...
2025-12-29 09:35:13

響かない声

広告代理店ブライトハウスの会議室には、重苦しい空気が漂っていた。 「若い女性に刺さるメッセージって何だと思う?」 クリエイティブ部長の杉山は、壁に映し出されたスライドを見つめながら問いかけた。クライアントは大手アパレルブランド「フローラ」。来春のキャンペーンに向けた企画会議だった。 「やっぱり...
2025-12-28 03:35:42

逃げ道という名の滑走路

入社十五年目の春、宮田智也は開発本部の窓際席で、真新しい辞令を眺めていた。 「北海道支社への異動ね」 開発本部長の声が、フロア全体に響いた。表向きは「新拠点の立ち上げ要員」だが、誰もが知っていた。先月の新製品プレゼンで、宮田が役員の方針に異を唱えたことへの報復だと。 「受けるしかないよな」 ...
2025-12-26 07:07:08

静かな窓際の席

総務部の村瀬美咲は、今日も始業前にオフィスに着いていた。 誰もいないフロアで資料を整理する時間が好きだった。蛍光灯の微かな唸りと、空調の低い音だけが響く。その静けさの中でなら、頭の中が整理される気がした。 しかし九時を過ぎると、オフィスは一変する。キーボードを叩く音、電話の呼び出し音、隣のデスク...
2025-12-20 22:36:53

ぬるま湯の中で

人事部の大森課長は、退職届を見つめていた。今月で三人目だ。 「また若手ですか」 隣の席の吉田が溜息をついた。 「ああ。入社二年目の藤本くん。一度も怒ったことないのに」 大森は頭を抱えた。三年前、会社は大きく変わった。パワハラ問題をきっかけに、管理職研修が刷新され、「心理的安全性」という言葉が...
2025-12-20 07:52:11

指示待ちの壁

営業三課の課長、村瀬隆一は会議室の壁時計を見上げた。午後三時。今日も部下の佐野が報告に来ない。 「佐野、例の提案書の進捗はどうなってる」 声をかけると、佐野はびくりと肩を震わせた。入社四年目、真面目だが、いつも村瀬の指示を待っている。 「あ、はい。課長からの指示待ちでした」 「指示? 先週の...
2025-12-20 07:15:05

窓際の椅子

宮本は、カレンダーの日付を見つめた。五十三歳。入社から三十年が経とうとしていた。 「宮本さん、この資料のチェックお願いできますか」 若手の田中が遠慮がちに声をかけてきた。かつては自分も同じように先輩たちに資料を持っていったものだ。宮本は黙って資料を受け取り、デスクに置いた。 三年前、同期の中村...
2025-12-20 06:54:46

熱くなれない人

営業企画部の村瀬は、三年目にして初めてプロジェクトリーダーを任された。新規サービスの立ち上げという大役に、周囲は期待の目を向けていた。 「村瀬さん、このプロジェクトにかける想いを聞かせてください」 キックオフミーティングで、部長の木島がそう水を向けた。会議室には八人のメンバーが揃っている。村瀬は...
2025-12-20 06:54:46

一応、確認なのですが

会議室の空気が、目に見えて淀んでいた。 森山食品マーケティング部の新商品開発会議。テーブルには「次世代ヘルシースナック」と銘打たれた企画書が広げられ、部長の黒田をはじめとする七名が難しい顔で腕を組んでいる。 「で、結局どうするんですか」 開発チームの中堅、早川が沈黙を破った。十五年この部署で働...
2025-12-20 06:54:46