読み物
2件の記事
ひとつの数字
辻真理子は、部長としての最後の稟議書に判を押した。次の四月に取締役就任が内定しており、今日はその内示のあとだった。窓の外は新橋の灰色の空。机上には娘のフォトフレームと、もう一通、彼女個人宛の茶封筒。差出人は週刊誌だった。
「貴社経営企画本部長・辻真理子氏のご実弟、飲食業で倒産寸前。ご本人はこの件に...
最後の一杯
青山の路地裏にある小さなバー「風見鶏」で、山崎達也は三十年間カウンターに立ち続けていた。
その夜、常連の大手広告代理店専務・川端が、いつもより早い時間に姿を見せた。
「マスター、いつもの」
川端はスツールに腰を下ろすと、乱暴にネクタイを緩めた。山崎は黙ってハイボールを差し出す。
「今日、つい...