読み物
4件の記事
ちょうどいい濃さ
宮下颯太が三日かけて仕上げた企画書は、我ながら力作だった。二十二ページ。市場分析に競合の動向、顧客インサイト、そして三段構えの施策。専門用語をちりばめ、横文字のフレームワークを図解にして、脚注まで付けた。これで自分の実力を分かってもらえる。そう思いながら、彼は先輩の館林に第一稿を手渡した。
館林は...
煮込みの時間
三田村隆一は、中堅食品メーカーの商品企画部長だ。四十二歳。「スピードが命」という言葉を社是のように唱え、部内のすべての業務に納期と効率指標を設けていた。
その朝、隆一のもとに一枚の企画書が届いた。提出者は入社五年目の朝倉桂。タイトルは「昔ながらの手法で作るビーフシチューの復活」。
読み始めて、隆...
ひとつの数字
辻真理子は、部長としての最後の稟議書に判を押した。次の四月に取締役就任が内定しており、今日はその内示のあとだった。窓の外は新橋の灰色の空。机上には娘のフォトフレームと、もう一通、彼女個人宛の茶封筒。差出人は週刊誌だった。
「貴社経営企画本部長・辻真理子氏のご実弟、飲食業で倒産寸前。ご本人はこの件に...
最後の一杯
青山の路地裏にある小さなバー「風見鶏」で、山崎達也は三十年間カウンターに立ち続けていた。
その夜、常連の大手広告代理店専務・川端が、いつもより早い時間に姿を見せた。
「マスター、いつもの」
川端はスツールに腰を下ろすと、乱暴にネクタイを緩めた。山崎は黙ってハイボールを差し出す。
「今日、つい...