論考集 (76件)

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独立の代償は「疑う仕組み」の喪失である――きんに君の事件から、トム・ショルツの地下室まで

## はじめに 「組織を飛び出せば、自由と富が手に入る」。 この十年ほどで、私たちはこの物語を何度も聞かされてきました。YouTube、SNS、D2C(メーカー直販)ブランドなど、個人がファンや広告主と直接つながる道具は揃いました。事務所や会社に高いマージンを払う理由は、もうないように見えます。...
2026-10-06 21:42:25

「市場コノヤロー!」と毒づきながら、淡々と好きなことをやる ―痛みと美貌に値札を付ける、無色のシステムについて

## はじめに 2026年8月、ひとりの女優が36歳で亡くなりました。ヘイデン・パネッティーア。2000年代半ば、ドラマ『HEROES』で「チアリーダーを救え、世界を救え」というキャッチコピーの中心にいた、あの金髪の少女です。 翌月に公表された死因は、フェンタニル、4-ANPP、アルプラゾラム、...
2026-09-23 16:16:32

弁護団の長さを数える ― 手放せないとき、私たちの中で起きていること

## はじめに 先日、私は醤油を捨てました。 正確に言えば、捨てるまでに少し手間取りました。醤油差しの中身がどうも酸っぱい気がしたのです。しかし気のせいかもしれない、いや、たぶん気のせいだろう、とそのとき私は思い直しました。そして醤油差しの分だけを流しに捨て、ボトルから新しく注ぎ直し、これで問題...
2026-09-23 08:13:06

不安のコンバーター ― ミソジニーは憎悪ではなく、変換エラーである

## はじめに イギリスの学校で、女性蔑視を防ぐための教育が義務化されると知ったとき、私は正直なところ驚きました。ジェンダーギャップ指数で日本よりはるかに上位にいる国が、なぜ今さら「女性を見下すな」と学校で教えなければならないのか。その順番が、どうにも腑に落ちなかったのです。 しかし調べていくう...
2026-09-21 13:37:05

プライドは資産か、負債か——690円の電気代から読む「人生の簿記」

## はじめに 2020年の秋、大阪府池田市の市長が、市庁舎に家庭用の簡易サウナを持ち込んでいたことが報じられました。市長は「腰を痛めていて、リハビリのためだった」と説明し、電気代として690円を市に返還しました。 690円です。缶コーヒー数本分です。 この数字を見たとき、多くの人は笑ったと思...
2026-09-18 20:55:17

人生という名のタスク管理 ― Nバッグの少年と「なんで?」の余白

## はじめに 先日、遅いお昼ご飯のおかずを買いに、近所のスーパーへ出かけたときのことです。 私の少し前を、小学校5、6年生くらいの男の子がひとりで歩いていました。背中のリュックには、大きく「N」の文字が入っています。中学受験の大手進学塾のバッグだと、すぐにわかりました。時刻は16時半を少し過ぎ...
2026-09-17 11:21:54

嘘をつけなくなる明細を、先に出す——独身偽装が教えるゼロトラストの逆襲

## はじめに 私は五十三歳のフリーランスエンジニアですが、案件を獲得するたび、そして入金があるたびに、その内容を母親に報告しています。 こう書くと、多くの方は苦笑されるだろうと思います。「いい歳をして親離れができていない」と。私自身、そう言われても仕方がないと思っていた時期がありました...
2026-09-17 06:23:23

「で、僕にとっては?」——節約でもメリハリでもない、体験を先に置く価値判断について

## はじめに 先日、スーパーで「あかふじ」というお米を2,400円ほどで買いました。袋の日付は2025年9月で、新米ではありません。隣には同じ銘柄の新米が2,800円ほどで並んでいましたが、私は迷わず安いほうをカゴに入れました。 その数日後、私は焼き鳥屋のカウンターで山崎のソーダ割りを頼んでい...
2026-09-17 06:22:55

依存先が一つしかない人が壊れるとき――ストーカー、自立、そしてモテるダメ男の逆説

## はじめに ストーカー被害を扱ったニュース動画を観ていて、ある場面で手が止まりました。 同僚女性へのつきまといを繰り返していた男性が、会社から加害者向けの更生プログラムの受講を指示され、愛知から大阪まで通っているというのです。私が引っかかったのは、プログラムの中身よりも「よく本人が受講に納得...
2026-09-16 07:57:37

美徳という名の悪徳 ―― 日本の労働生産性を沈めているのは、誰の善意か

## はじめに 日本の労働生産性が低い、という話を、私たちはもう二十年以上聞かされ続けています。聞き飽きたと言ってもいいくらいです。そしてその説明も、だいたい決まっています。DXの遅れ。価格転嫁力の弱さ。労働市場の硬直性。円安によるドル換算の目減り。どれも間違ってはいませんし、統計にきちんと出てく...
2026-09-12 22:09:30

「800万円の普通の男」は誰が作ったのか——怒りを商品化する情報流通市場の解剖

## はじめに 婚活をめぐる記事を眺めていると、数年に一度ではなく、もはや数週間に一度のペースで、同じ形をした話に出会います。 「結婚相手は年収800万円くらいの、普通の男でいいです」 この種の発言が記事の見出しになり、SNSで拡散され、コメント欄が荒れ、そして「婚活女性の“普通”が壊れている...
2026-09-08 13:44:09

代理的裁定 —— あなたの人生の代理度は、何パーセントですか

## はじめに 私は、その動画を一度も観ていません。 ここ最近、ある動画コンテンツが問題になっているという話を、いくつもの記事で追いかけていました。いわゆる迷惑系、炎上系と呼ばれるジャンルです。記事を読み進めるうちに、これは私の好みには絶対に合わないだろうという確信が固まりました。ですから、観て...
2026-09-02 23:04:52

月間リスナー二人、収益五十五ドル ——「実力がついてから名乗る」という順序について

## はじめに 先日、音楽配信の管理画面を眺めながら、私は少し笑ってしまいました。私の楽曲の月間リスナー数は、長いあいだ二人だったからです。二千人でも二百人でもなく、二人です。おそらくそのうち一人は私自身で、もう一人は検索を打ち間違えた誰かではないか——そんなふうに疑っていたくらいの数字でした。 ...
2026-08-27 10:27:26

「ペンは剣よりも強し」には但し書きがあった——弁護士カストロと作家三島が、同じ場所で言葉を捨てた話

## はじめに 「ペンは剣よりも強し」。 小学校の学級文庫にも、弁護士事務所のパンフレットにも、卒業式の祝辞にも登場する、たぶん世界で最も使い回されている格言のひとつです。意味は明快です。暴力よりも言葉のほうが最後には勝つ。だから我々は本を読み、議論をし、選挙に行くのだ、と。 私はこの格言を、...
2026-08-24 22:46:33

他人のシュールは、私の常識——常識という化石の解剖学

## はじめに 金曜の夜、八時半。仕事を終えて帰宅し、一人で蕎麦を茹でて食べ終えた男が、満腹のまま部屋の椅子に座って「常識とはそもそも何なのか」を考えています。ときどき自分の思いつきに一人でニヤリとしています。 この光景を「シュールだ」と評する人がいます。 私はその評価を、素直に受け取る前に一...
2026-08-23 16:44:56

氷は、もういらなかった ── 前提の賞味期限切れという、人類共通のバグについて

## はじめに 夏の朝、私はアイスコーヒーを作ります。いつものグラス、氷を三つ、濃縮還元のコーヒーと冷水を注いで、なみなみと一杯。何年もそうしてきました。 そして何年も、同じ不満を抱えてきました。最後のほうが、水っぽくてまずいのです。 氷が溶けるのだから当たり前です。私はしばらく、この問題を「...
2026-08-21 12:45:09

反論で止まる人、反論の反論まで潜る人 ——「正解」を教える教育が奪った、盤面ごと疑う力

## はじめに 名著と呼ばれる本を読んでいて、ふと「でも、これって本当ですか?」と思う瞬間があります。あの感覚は、なかなか気持ちのいいものです。世界的なベストセラーに、素人の自分がツッコミを入れられた。何だか自分が一段賢くなったような、ちょっとした全能感があります。 私はここに、ひとつの落とし穴...
2026-08-16 22:58:09

血液型占いは、なぜ死なないのか——ラベルという名の免罪符について

## はじめに 私は血液型占いが嫌いです。MBTIも同じくらい嫌いです。あまりに嫌いなので、「More Than Labels」という曲まで作ってしまったほどです。人間をいくつかの箱に押し込めて、その箱の名前で相手を分かった気になる——そういう振る舞いに対して、私はずっと苛立ちを覚えてきました。 ...
2026-08-14 17:29:03

知の筋トレは、なぜ全員には課せないのか——ある夜の自主検証から考える「批判的思考」の分業論

## はじめに 「情報を鵜呑みにするな」「自分の頭で考えろ」「一次情報にあたれ」。この種の言葉を、私たちは耳にタコができるほど聞かされてきました。生成AIが日常に溶け込み、真偽の入り混じった情報が濁流のように流れ込んでくる今、その正しさを疑う人はほとんどいないでしょう。私自身、この標語に全面的に賛...
2026-07-23 14:23:27

他者肯定という土台――なぜ「自己肯定感を高めよう」だけでは救われないのか

## はじめに 「自己肯定感を高めましょう」。この言葉を、私たちはもう何度耳にしてきたでしょうか。書店の平台、SNSのタイムライン、企業研修のスライド、育児雑誌の特集。どこを向いても「まず自分を大切に」「自分の機嫌は自分でとろう」というメッセージが目に飛び込んできます。悪い言葉ではありません。むし...
2026-07-22 18:41:22