自己啓発
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正しい側の人
営業企画部の小野寺洋介は、自分が正しいと信じていた。
社内の人事評価制度が改定され、マネジメント経験よりもプロジェクト成果を重視する方針に切り替わった。結果、現場でプロジェクトを回してきた若手や中途入社の社員が次々と昇格し、十五年間コツコツと積み上げてきた小野寺は据え置きのままだった。
「これは...
三枚の名刺
システム開発会社の課長、高橋美咲は、週末になると別人になる。
平日の彼女は、チームを率いる冷静な管理職だ。部下からの相談には的確に答え、クライアントとの折衝では一歩も引かない。社内では「鉄の女」と呼ばれている。
しかし土曜日の朝、彼女は地域の子ども食堂でエプロンをつけ、配膳係として汗を流す。そこ...
失点の記憶
営業部の中堅社員、川島誠一は、三年前の記憶から逃れられずにいた。
当時、彼は新規事業チームのリーダーとして、会社の命運を賭けた大型プレゼンに臨んでいた。相手は業界最大手の製造会社。受注できれば、会社の売上は一気に三割増となる案件だった。
プレゼン当日、川島は完璧な準備をしていたはずだった。しかし...
三百のメモ
佐伯誠一は、付箋の山を見つめていた。
パソコンのモニター周りに貼られた黄色い紙片は、もう数えきれないほどになっている。「顧客データの可視化ツール」「営業日報の自動要約」「新人研修のオンライン化」——どれも会議中や通勤電車の中で思いついたアイデアだった。
「佐伯さん、また増えましたね」
後輩の村...
評論家の席
三十四歳の須藤健一は、営業企画部のデスクで資料を眺めながら、今日も何かが違うと感じていた。
大学時代は弁論部の部長として全国大会に出場し、入社後も三年連続で新人賞を受賞した。同期の中では出世頭と言われ、二十代の終わりには課長補佐に抜擢された。誰もが彼の将来を期待していた。
だが、三十歳を過ぎた頃...
椅子のない部屋
川島誠一は、入社二十三年目の春に、自分の席がなくなっていることに気づいた。
出張から戻った月曜の朝、いつものフロアに上がると、見慣れたパーティションの配置が変わっていた。彼のデスクがあった場所には、フリーアドレス用の共有テーブルが置かれている。
「川島さん、三階の会議室Bに荷物まとめてあります」...
谷底の営業部長
営業第三部の部長・宮本隆司は、自席のパソコン画面を見つめたまま動けなくなっていた。
午前中に人事部長から告げられた内容が、まだ頭の中で反響している。「来期の組織改編で、営業第三部は統合対象です。宮本さんには関連会社への出向を打診したい」
五十二歳。入社三十年。気づけば、会社に必要とされない人間に...
ツキを呼ぶ男
総務課の窓際に座る五十嵐哲也は、社内で「ツイていない男」として知られていた。入社十五年、異動の話が出るたびに直前で白紙になり、担当したプロジェクトは軒並み頓挫し、昨年は財布を三回も落とした。
「また外れたよ、社内ビンゴ」
五十嵐がため息をつくと、隣の席の若手、河野が苦笑した。
「五十嵐さん、い...
カメ組の名刺
入社七年目の春、藤原健一は自分のデスクで名刺を眺めていた。「営業三課 主任 藤原健一」。肩書きは三年前から変わっていない。同期の村田はすでに課長代理だ。
「藤原さん、会議室空いてます」
後輩の山下が声をかけてきた。今日は新規プロジェクトのプレゼン担当を決める会議だ。
会議室に入ると、課長の田中...
半分のコップ
営業三課の課長、村田は五十二歳になった日から、毎朝鏡を見るのが憂鬱になった。
「また増えたな」
白髪のことではない。額に刻まれた縦皺のことだ。いつの頃からか、村田の表情は険しくなっていた。部下の失敗に眉をひそめ、競合他社の躍進に舌打ちをし、本社からの無理な指示に唇を噛む。そんな日々の積み重ねが、...
「今日、何を聞いた?」
営業企画部の課長・高梨誠一は、部下たちの顔を見渡しながら額に手を当てた。
「なぜ誰も質問しないんだ」
新製品のマーケティング会議が終わった直後のことだった。本部長からの説明を聞いている間、高梨は何度か振り返った。だが、八人の部下は全員、無表情でメモを取っているだけだった。
「高梨くん、君のとこ...