働き方改革
8件の記事
全方位の人
金曜の夕方、製造ラインで小さな事故が起きた。出荷を待つ製品が台ごと傾き、検品にあたっていたスタッフが手をかすめて軽い怪我を負った。縫うほどではない。だが誰かが撮った写真がその夜のうちに広まり、週末を待たずに「管理体制はどうなっている」「安全を軽んじている」という声が積み上がっていった。
月曜の朝、...
下っ端になりに来た男
高瀬調理器具製作所の二代目社長・高瀬誠一は、五十二歳にして、自分の会社の組み立てラインに「見習い」として立っていた。
きっかけは、隣町の小さな金属加工会社「フジワラ製作所」だった。高瀬の工場が三日かかる工程を、その町工場はなぜか半日で終える。同じ機械、同じ材料、同じ人数。からくりが知りたくて頭を...
記録が証明したもの
田中誠は十二年間、同じやり方で部門を回してきた。朝九時、部屋の電気を一番に点ける。部下が順々に出勤してくる。互いに軽く会釈して、それぞれのデスクへ向かう。その光景こそが仕事の始まりだと、彼は長年信じていた。
開発部長として三十名を束ねるようになってからも、その信念は変わらなかった。チームとは同じ場...
反論のない会議室
三枝誠一は、社内で導入された新しいAIアシスタントの評価レポートを読みながら、ため息をついていた。
満足度98%。
部長の椅子に座って三年になるが、これほど気持ちの悪い数字を見たのは初めてだった。
株式会社クロスフィールドは、業務効率化のために全社にAIアシスタントを導入した。企画書の壁...
模範の代償
伊東製作所のシステム開発部には、「天才」と呼ばれる男がいた。
桐生隆志。三十八歳。入社十五年目にして、社内の基幹システムを事実上一人で設計し直した伝説の持ち主だ。朝は誰よりも早く来て、夜は誰よりも遅く帰る。だが桐生の顔にはいつも笑みがあった。コードを書くことが好きで、難問を解くことに喜びを感じ、...
マニュアルの外側
総務部の吉岡真帆は、入社三年目にして社内規程の見直しプロジェクトのリーダーに抜擢された。三十二歳の彼女にとって、それは嬉しくもあり、重い任務でもあった。
きっかけは、社員アンケートだった。「社内ルールが多すぎて息苦しい」という声が、回答の四割を占めていた。服装規程、備品の使用ルール、会議室の予約手...
椅子のない部屋
川島誠一は、入社二十三年目の春に、自分の席がなくなっていることに気づいた。
出張から戻った月曜の朝、いつものフロアに上がると、見慣れたパーティションの配置が変わっていた。彼のデスクがあった場所には、フリーアドレス用の共有テーブルが置かれている。
「川島さん、三階の会議室Bに荷物まとめてあります」...
誰の責任でもない場所
神田の雑居ビル三階に入居する「クイックマッチ・ジャパン」は、飲食店と配達員をつなぐマッチングアプリを運営している。創業四年目、登録店舗は三千を超え、配達員は一万人に迫ろうとしていた。
経営企画部の村瀬康平は、その日の朝から気が重かった。SNSで炎上していた。配達員が商店街で高齢者と接触し、軽傷を負...