多様性
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通りの灯
商店街「さくら通り」で三十年、定食屋「まるよし」を営む関口正志は、朝五時に起きて出汁を引くことから一日を始める。妻の和子と二人、十二席のカウンターを切り盛りしてきた。常連は近隣の工場やオフィスで働く人たち。派手な店ではないが、昼時には行列ができることもあった。
異変が起きたのは、市の中心部で大規模...
マニュアルの外側
総務部の吉岡真帆は、入社三年目にして社内規程の見直しプロジェクトのリーダーに抜擢された。三十二歳の彼女にとって、それは嬉しくもあり、重い任務でもあった。
きっかけは、社員アンケートだった。「社内ルールが多すぎて息苦しい」という声が、回答の四割を占めていた。服装規程、備品の使用ルール、会議室の予約手...
響かない声
広告代理店ブライトハウスの会議室には、重苦しい空気が漂っていた。
「若い女性に刺さるメッセージって何だと思う?」
クリエイティブ部長の杉山は、壁に映し出されたスライドを見つめながら問いかけた。クライアントは大手アパレルブランド「フローラ」。来春のキャンペーンに向けた企画会議だった。
「やっぱり...
静かな窓際の席
総務部の村瀬美咲は、今日も始業前にオフィスに着いていた。
誰もいないフロアで資料を整理する時間が好きだった。蛍光灯の微かな唸りと、空調の低い音だけが響く。その静けさの中でなら、頭の中が整理される気がした。
しかし九時を過ぎると、オフィスは一変する。キーボードを叩く音、電話の呼び出し音、隣のデスク...