キャリアデザイン 3件の記事

社外の椅子

湊川テクノの資材調達部で、立花孝一は「話が早い男」で通っていた。四十八歳、入社二十六年。設計が無理を言えば協力工場に頭を下げ、経理が渋れば会議の前に廊下で片をつける。社内の誰と誰がどんな貸し借りを抱えているかを、彼は地図のように把握していた。  その地図が急に色を失ったのは、主力の計測機器事業を縮...
2026-09-01 10:08:16

翻訳者の砥石

「来期から、君には技術広報に移ってもらう」 恩田悠介がその辞令を聞いたのは、入社八年目の春だった。彼は精密機器メーカー「明科テクノロジー」の中央研究所で、センサーの信号処理アルゴリズムを担当していた。学会で論文賞をとったこともある。誰もが彼を「研究所の頭脳」と呼んだ。 技術広報。製品カタログの文...
2026-06-07 08:40:40

譲れない軸

「ミドリ広告」の大阪支社は、地場企業を中心に堅実な取引を積み上げてきた中堅代理店だ。 主任の久保田茜(二十八歳)は、その支社で「真面目な久保田さん」として通っていた。服装はきちんとしたジャケットにパンツ、髪はいつもまとめ、クライアント先でも物腰が柔らかく、年配の担当者受けがいい。支社の売上の一割を...
2026-04-18 13:01:38