暗黙知
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引き継がれないもの
村岡賢一がコスト最適化に舵を切ったのは、三年前のことだった。
当時の判断には根拠があった。業界全体が収益性の低下に苦しむ中、固定費を削らなければ生き残れないという危機感があった。専門業務は次々と外部委託に移し、「社内は調整と判断だけ行えばいい」という方針を打ち出した。採用も絞り、既存社員には広範な...
逆さまの師弟
中堅メーカー・三和精工の品質管理部に、今年で在籍二十三年になる矢野和子がいる。現場たたき上げの彼女は、検査手順のマニュアルを誰よりも正確に運用することで信頼を得てきた。
その矢野の下に、昨年の春、DX推進室から「現場研修」の名目で送り込まれてきたのが、入社四年目の桐山翔太だった。データ分析とシス...
名前のない設計図
総務部の片山朋子は、自分のことを「要領が悪い人間」だと思っていた。
たとえば、全社イベントの準備を任されたとき、彼女はまずノートを開く。会場の下見、備品の手配、関係部署への連絡、当日の動線、トラブル時の代替案――すべてを付箋に書き出し、時系列で並べ、依存関係を矢印でつなぐ。同僚たちが「片山さん、ま...