人生設計
4件の記事
冷蔵庫に貼られた数字
「中学受験をしたい」
小学五年生の美咲がそう言い出したのは、夕食の片付けをしている最中だった。
中堅メーカーで営業部長を務める山本健一は、思わず手を止めた。妻の恵子も、食器洗いの手を止めてこちらを見ている。
「友達のあかりちゃんが塾に行き始めて、すごく楽しそうなの」
美咲の瞳は輝いていた。そ...
空っぽの冷蔵庫
山下美和子は、末っ子の息子が家を出た日の夜、久しぶりに冷蔵庫を開けた。
三段の棚には、ほとんど何も入っていなかった。卵が三個と、賞味期限の切れた豆腐と、夫が晩酌用に買った缶ビールが二本。
「今夜、どうする?」
夫の義明が台所に顔を出した。
「外に食べに行こうか」
美和子はそう答えた。二十五...
地図のない航海
三崎誠一は、明和食品の営業企画部で三十二年間働いてきた。来月で五十七歳になる。
「三崎さん、例の件ですが」
隣の席の若手、田村が声をかけてきた。新規取引先との契約書類のことだ。三崎が下準備をし、田村が仕上げる。かつては逆だったが、役職定年で課長の肩書を外してからは、こうした補佐的な仕事が増えた。...
残りの時間
総務部の佐藤健一は、五十二歳になった朝、自分の人生を振り返っていた。
入社三十年。与えられた仕事を真面目にこなし、大きな失敗もなく、課長という肩書きを手に入れた。だが、会議室の窓から見える景色は、三十年前と何も変わっていなかった。変わったのは、自分の髪が白くなったことくらいだ。
「佐藤さん、新人...