チームづくり 5件の記事

水曜日の落書き帳

ホシノ電工には、水曜の朝までに社内掲示板へ新しい商品の案をひとつ書く、という決まりがあった。社員三十四人、全員が対象。ただし役員は書かないし、読まない。それが十年続いている。 企画課の宮下志保は、その掲示板が好きだった。好きだったが、この一年は苦しかった。彼女の書いた案はどれも「面白いね」で流れ、...
2026-08-18 09:11:43

稼働率九十八パーセント

分散勤務に切り替えて四か月、営業支援部の数字は悪くなかった。見積書の作成件数は前年比で一割増え、差し戻し率は下がった。宮下がその二つを月次資料に並べたとき、役員の一人が短く言った。 「では、なぜ受注は伸びていない」 宮下は答えを持たなかった。持っていないというより、答えの形が数字になっていなかっ...
2026-08-16 12:07:20

隙のない人

七時十五分。椎名遥は関西支社の鍵を開けた。 久米屋食品の業務用調味料部門で、女性が支社長になるのは初めてだった。着任の日に本社の役員から「前例をつくってください」と言われて、彼女は微笑んで頷いた。前例。つまり、失敗できないということだ。 彼女は自分に規則を課した。誰よりも早く来る。数字は前日のう...
2026-08-11 07:42:49

勘定科目にない資産

産業用センサーをつくる東和テクノで、品質保証部の八木誠一が退職願を持ってきたのは、期末の山を越えた火曜の午後だった。 「一身上の都合ということで、お願いします」 八木は白い封筒を机に置くと、それ以上何も言わなかった。課長の沢渡は封筒を裏返したり戻したりしながら、この十年で八木と交わした会話の総量...
2026-08-09 13:13:57

裏要件

速水が最後のケーブルを抜いたとき、時計は午後十一時を回っていた。朝の七時半から、ほとんど飯も食わずに机に張りついていた。取引先の基幹サーバーが復旧不能に陥り、彼が一人で呼び出された案件だった。手順書どおりの復元は何度試しても弾かれ、途中でやり方そのものを切り替えた。ライセンスの壁、ドライバの相性、引...
2026-06-16 17:17:44