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ショートストーリー

縦書き

「とりあえず」の呪い

入社三年目の春、営業部の田村健太は上司の佐藤課長に呼ばれた。 「お前、今年の目標は何だ」 「えっと、とりあえず売上を伸ばしたいですね。まずは去年より上を目指します」 佐藤は眉をひそめた。 「とりあえず、か。まずは、か」 田村は何を言われているのかわからなかった。 「お前、その言葉を使ってる限り、一生目標なんか達成できないぞ」 厳しい言葉だった。田村は反論しようとしたが、佐藤は続けた。 「いくら伸ばすんだ。何パーセントだ。いつまでにだ。そのために毎日何をするんだ」 田村は黙った。答えられなかった。 「数字で言え。期日を決めろ。それができないなら、お前の目標は目標じゃない。ただの願望だ」 その日から、田村は自分の口癖に気づくようになった。 「とりあえず資料作っておきます」 「まずはお客さんに連絡してみます」 「一応、準備しておきます」 どれも曖昧だった。いつまでに、どのレベルで、何のために。何一つ明確ではなかった。 同期の山本美咲は違った。彼女はいつも手帳にびっしりと予定を書き込んでいた。 「山本、お前いつも何書いてるんだ」 「今月の目標と、そのための毎日のタスク。あと、先週の振り返り」 田村は覗き込んだ。そこには「6月末までに新規契約3件」「そのために週5件のアポイント」「1日2時間の提案資料作成」と、具体的な数字が並んでいた。 「そこまで細かく決めるのか」 「決めないと動けないでしょ。『頑張ります』だけじゃ、何したらいいかわからないじゃん」 山本は三年目で部内トップの成績を出していた。田村は中の下だった。 ある日、大きな案件のチャンスが回ってきた。大手メーカーからの引き合いだ。課長は田村と山本の両方に声をかけた。 「プレゼンは来週の金曜だ。どちらかに任せる。どう準備するか、明日までに計画書を出せ」 田村は焦った。とりあえず、何か書かなければ。 翌朝、二人の計画書が並んだ。 田村の計画書には「競合調査」「提案資料作成」「リハーサル」と、やるべきことが箇条書きで並んでいた。 山本の計画書には、同じ項目が並んでいたが、それぞれに期日と時間と完了基準が書かれていた。「月曜18時まで:競合3社の価格・サービス比較表完成」「火曜12時まで:提案の骨子を課長に確認」「木曜19時:リハーサル、録画して改善点を3つ以上抽出」 佐藤課長は二つの計画書を見比べて言った。 「田村、お前のは何をやるかは書いてあるが、いつどこまでやるかがない。これじゃ、金曜になって『間に合いませんでした』と言いそうだな」 田村は反論できなかった。 「山本に任せる。田村、お前はサポートに回れ」 悔しかった。でも、悔しいと思えたことが、田村にとっては変化の始まりだった。 その週、田村は山本の隣で働いた。彼女は計画通りに動いていた。月曜の夕方には競合調査が終わり、火曜の昼には課長のフィードバックを受けていた。 「どうやって、そんなに予定通りにいくんだ」 「予定通りにいかないことのほうが多いよ。だから、余裕を持って計画を立てるの。火曜の昼に課長に見せるってことは、月曜中に完成させないといけない。そうすると、月曜は他の仕事を入れられない。そこから逆算するの」 田村は手帳を買った。 翌月、小さな案件だが、田村は一人で任された。今度は違った。 「来月末までに受注」「そのために今週中にキーマンとの面談」「面談までに相手の課題を三つ仮説として用意」 計画を立て、期日を決め、毎日進捗を確認した。予定より遅れそうになったら、すぐに軌道修正した。 結果は、受注だった。 「田村、変わったな」 佐藤課長が言った。 「『とりあえず』って言わなくなった」 田村は気づいた。言葉が変わると、行動が変わる。行動が変わると、結果が変わる。 曖昧な言葉は、曖昧な行動を生む。明確な言葉は、明確な行動を生む。 「とりあえず」は、逃げ道だったのだ。

論考

縦書き

目標達成の分水嶺——「とりあえず」という言葉が奪うもの

### 序 目標を達成できる人とできない人の違いは何か。能力や環境の差もあるが、最も見落とされがちなのは「言葉の使い方」である。「とりあえずやってみます」「まずはこれから」という言葉を頻繁に使う人は、目標を達成しにくい傾向がある。曖昧な言葉は曖昧な行動を生み、曖昧な結果しかもたらさない。では、なぜ私たちは曖昧な言葉を使ってしまうのか。 ### 展開 「とりあえず」「まずは」は便利な言葉だ。具体的な数字や期日を示さなくて済む。失敗しても言い訳ができる。心理的なプレッシャーから逃れられる。しかし、この言葉には重大な問題がある。行動の指針にならないのだ。 「売上を伸ばしたい」と「6月末までに売上を前年比120%にする」では、日々の行動がまったく異なる。後者であれば、今月何をすべきか、今週何をすべきか、今日何をすべきかが逆算で決まる。前者は「頑張る」以上の具体的行動に落ちない。目標の言語化とは、願望を計画に変換する作業である。では、どの程度具体的であるべきか。 ### 反証 ただし、すべてを数字と期日で縛ることが正解とは限らない。創造的な仕事や探索的なプロジェクトでは、あえて曖昧さを残すことが有効な場合もある。また、過度に細かい計画は変化への適応力を奪う可能性がある。 さらに、指示を受けて動くタイプの人材が成果を出せないわけでもない。組織には様々な役割があり、自律的に動く人だけでチームは成立しない。重要なのは、自分がどちらのタイプかを理解し、それに応じた働き方を選ぶことだ。では、自律性を高めるには何が必要か。 ### 再構成 目標達成の鍵は「言語化」「期日設定」「逆算」の三つである。まず、達成したい状態を具体的な言葉にする。次に、いつまでにそれを達成するか期日を決める。最後に、期日から逆算して今日何をすべきかを導く。 この三つを習慣化するには、日々の振り返りが有効だ。計画通りに進んだか、遅れているなら何が原因か、軌道修正は必要か。この検証サイクルを回すことで、計画の精度が上がり、達成率も向上する。では、振り返りはどの頻度で行うべきか。 ### 示唆 言葉は思考を形作り、思考は行動を形作る。「とりあえず」という言葉を使う限り、行動は曖昧なままだ。逆に、具体的な言葉を使う習慣が身につけば、行動も具体的になる。 目標達成とは、特別な才能の問題ではない。言葉と計画の問題だ。今日から、「とりあえず」を封印してみる。そこから変化は始まる。 --- **実務への含意** - 目標を立てる際は「何を」「いつまでに」「どの水準で」を明文化し、曖昧な表現を排除する - 週末に翌週の計画を立て、期日から逆算して日々のタスクを決める習慣をつける - 口癖として「とりあえず」「まずは」を使っていないか意識し、具体的な言葉に置き換える --- ### 参考文献 ※ 本記事にはアフィリエイトリンクが含まれています - 『完訳 7つの習慣 人格主義の回復』スティーブン・R・コヴィー(キングベアー出版)[Amazon](https://www.amazon.co.jp/dp/4863940246?tag=digitaro0d-22) - 『やり抜く力 GRIT』アンジェラ・ダックワース(ダイヤモンド社)[Amazon](https://www.amazon.co.jp/dp/4478064806?tag=digitaro0d-22) - 『最速で課題を解決する 逆算思考』中尾隆一郎(秀和システム)[Amazon](https://www.amazon.co.jp/dp/4798057479?tag=digitaro0d-22)

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