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ショートストーリー

縦書き

動かない迷路

企画部の須藤拓真は、会議室の窓から外を眺めていた。 午後三時。本来なら資料を作成しているはずの時間だ。しかし彼は、机の上に広げたノートを前に、もう一時間以上同じ場所に座っていた。 「須藤、まだ考えてるのか」 ドアを開けたのは、先輩の工藤だった。五十代半ば、入社以来ずっとこの会社で働いてきた人だ。 「新規事業の企画書、方向性が決まらなくて……」 須藤は溜息をついた。 「どっちに進むべきか、ずっと考えてるんです。A案とB案、どちらにも良い点と悪い点があって」 工藤は椅子を引いて座った。 「それ、いつから考えてる」 「先週からです」 「一週間か」 工藤は腕を組んだ。 「その間に、何かやったのか」 須藤は言葉に詰まった。 「いえ……まずはしっかり考えてから動こうと思って」 「なるほどな」 工藤は窓の外に目をやった。 「俺も若い頃はそうだった。完璧な答えを見つけてから動きたい。失敗したくない。わかるよ」 須藤は頷いた。先輩なら理解してくれる。そう思った。 しかし、次の言葉は予想外だった。 「でもな、須藤。お前の悩みには、中身がない」 --- 須藤は思わず顔を上げた。 「中身がない、とは」 「お前はA案とB案で悩んでると言った。でも、どちらも机上の話だろう。実際に顧客に話を聞いたか。試作品を作ってみたか。社内の他部署に意見を求めたか」 「それは……まだです。方向性が決まってからと思って」 「そこなんだよ」 工藤は机を軽く叩いた。 「悩みってのは、材料があって初めて深まるんだ。お前は材料を集めずに、頭の中だけで料理を完成させようとしてる。だから同じところをぐるぐる回る」 須藤は反論しようとした。しかし、言葉が出てこなかった。 「俺はな、三十年この会社にいて、いろんなプロジェクトを見てきた。うまくいったものに共通してるのは、早い段階で動いてたってことだ。完璧じゃなくていい。まず一歩踏み出す。そうすると、見えなかったものが見えてくる」 --- その夜、須藤は自宅のアパートで天井を見上げていた。 工藤の言葉が頭から離れない。中身がない。材料がない。 確かに、自分は何もしていなかった。ただ頭の中で選択肢を並べ、どちらがリスクが少ないか、どちらが評価されるか、そんなことばかり考えていた。 翌朝、須藤は出社するなり、営業部の後輩に声をかけた。 「来週、顧客訪問に同行させてもらえないか。新規事業のヒントが欲しいんだ」 後輩は驚いた顔をしたが、すぐに笑顔になった。 「いいですよ。むしろ企画の人に来てもらえると助かります」 その週、須藤は三社を訪問した。すると、机の上では見えなかったことが次々と見えてきた。顧客が本当に困っていること。競合が手を出していない領域。自社の強みが活きる場所。 金曜日の夕方、須藤は新しい企画書を書いていた。A案でもB案でもない、C案だった。 --- 「須藤、変わったな」 帰り際、工藤が声をかけてきた。 「少しは動いてみました」 「そうか」 工藤は小さく頷いた。 「悩むことは悪いことじゃない。でも、悩みが深まるのは、動いた後なんだ。覚えておけ」 須藤は会釈して、オフィスを後にした。 外はもう暗くなっていた。しかし、一週間前とは違う暗さだった。先が見えないのではなく、これから見えてくるのだと思えた。 迷路を抜けるには、歩くしかない。立ち止まって地図を睨んでいても、出口は近づかないのだ。 --- 考えることと動くことは、対立するものではない。どちらかを選ぶのではなく、どちらが先かを選ぶだけなのかもしれない。

論考

縦書き

行動が悩みを深化させる

### 序:悩みの二つの顔 悩むことには二種類ある。一つは、具体的な経験や情報を整理し、次の一手を模索する建設的な思索。もう一つは、素材がないまま同じ問いを繰り返す空転する思考である。前者は人生を前に進める力になるが、後者は時間を浪費するだけで終わる。両者の違いは、悩みの「前」に何があるかで決まる。行動と経験の蓄積があれば、悩みは深まる。なければ、堂々巡りに陥る。 **検証可能な問い**:あなたが今抱えている悩みには、具体的な経験や情報という素材があるか。 --- ### 展開:経験が思考の材料になる 脳には「ディフォルト・モード・ネットワーク」と呼ばれる回路がある。これは、具体的なタスクに集中していないとき、つまり「ぼんやり考えている」ときに活性化する。この回路が働くことで、散らばった記憶や情報が結びつき、新しい発想や洞察が生まれる。しかし重要なのは、この回路が機能するには、事前に蓄積された経験や記憶が必要だという点だ。空っぽの引き出しからは何も取り出せない。悩みが創造的になるかどうかは、それ以前にどれだけ動いたかで決まる。 **検証可能な問い**:直近一週間で、あなたは悩む材料となる具体的な行動をどれだけ取ったか。 --- ### 反証:立ち止まることの価値 ただし、行動を過度に神聖視することには危険もある。立ち止まって考える時間を軽視すれば、方向を誤ったまま走り続けることになる。また、環境や資源の制約から、すぐに行動できない状況にいる人もいる。そうした人に「まず動け」と言うのは、現実を無視した精神論になりかねない。重要なのは、行動と内省のどちらかを選ぶことではなく、両者の循環を作ることだ。どちらか一方だけでは、人生の質は高まらない。 **検証可能な問い**:あなたの日常には、行動と内省の健全な循環が存在しているか。 --- ### 再構成:「読点」としての悩み 悩みは、行動の連続における「読点」のようなものだと考えるとわかりやすい。文章が句読点なしでは読みにくいように、人生も立ち止まる瞬間がなければ方向を見失う。しかし、読点だけで文章は成り立たない。主語があり、動詞があり、内容があって初めて、読点は意味を持つ。同様に、悩みは行動の合間にあってこそ機能する。悩むことを目的化せず、次の行動につなげる接点として位置づけることが重要である。 **検証可能な問い**:あなたの悩みは、次の行動への接点になっているか、それとも行動を回避する口実になっていないか。 --- ### 示唆:まず動くことで見える景色 完璧な答えを見つけてから動こうとする姿勢は、一見慎重に見える。しかし実際には、動かないことで情報が得られず、情報がないから判断ができず、判断ができないから動けない、という悪循環に陥りやすい。小さくてもいいから動いてみる。そうすることで、机上では見えなかった現実が見えてくる。悩みの質を上げたければ、悩む時間を減らし、動く時間を増やすことだ。逆説的だが、それが最も確実な方法である。 **検証可能な問い**:今日、悩む時間を30分減らして、その分を具体的な行動に充てられるか。 --- ### 実務への含意 - 意思決定に迷ったら、追加情報を得るための小さな行動を先に取る - 悩みが長期化しているときは、「素材不足」を疑い、現場に出る機会を設ける - 定期的に「行動→内省→行動」の循環が回っているか自己点検する --- ### 参考文献 - 行動力: https://www.amazon.co.jp/s?k=行動力&tag=digitaro0d-22 - 意思決定: https://www.amazon.co.jp/s?k=意思決定&tag=digitaro0d-22 - 脳科学: https://www.amazon.co.jp/s?k=脳科学&tag=digitaro0d-22 ※ 本記事にはアフィリエイトリンクが含まれています

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