成長 20件の記事

伝え方の温度

製造業の中堅メーカー・丸栄精機の品質管理課に着任した新任課長の桐生和也は、着任早々、部下たちの仕事ぶりに頭を抱えていた。  前任の課長が「のびのびやらせる」方針だったこともあり、報告書の書式がバラバラ、検査手順の省略も散見される。桐生は前職で徹底した品質管理を実践してきた自負がある。このままでは取...
2026-02-17 09:06:38

マニュアルの外側

総務部の吉岡真帆は、入社三年目にして社内規程の見直しプロジェクトのリーダーに抜擢された。三十二歳の彼女にとって、それは嬉しくもあり、重い任務でもあった。 きっかけは、社員アンケートだった。「社内ルールが多すぎて息苦しい」という声が、回答の四割を占めていた。服装規程、備品の使用ルール、会議室の予約手...
2026-02-01 17:33:12

エースの死角

営業部のエース、鳴海拓也は今期も全社トップの成績を叩き出していた。入社七年目、三十一歳。明るい笑顔、論理的な話術、そして誰もが認める行動力。クライアントからの評判も抜群で、「鳴海さんに担当してもらえてよかった」という声が社内に届くことも珍しくなかった。 だからこそ、鳴海には不満があった。 月曜の...
2026-02-01 16:41:05

十人の声

営業企画部の永瀬真紀は、自席のモニターに映った数字を見て、思わず唇を噛んだ。 参加申込数——七名。 生活雑貨メーカー「ハルノ工房」が初めて企画した顧客交流イベントまで、あと二週間。社内で大々的に告知し、SNSでも拡散したのに、反応はこの程度だった。 「永瀬さん、集まり具合はどうですか」 声を...
2026-01-30 11:35:37

隣の席の距離

営業一課と営業二課の統合が決まったのは、六月の末だった。 業績の伸び悩みを背景に、会社は組織のスリム化を進めていた。統合後の新チームを率いることになったのは、営業一課の課長・片桐雅彦、四十二歳。部下は十二人になる。 片桐は統合初日、全員をひとつの島に集めた。デスクを寄せ、ホワイトボードを共有し、...
2026-01-29 16:43:58

三枚の名刺

システム開発会社の課長、高橋美咲は、週末になると別人になる。 平日の彼女は、チームを率いる冷静な管理職だ。部下からの相談には的確に答え、クライアントとの折衝では一歩も引かない。社内では「鉄の女」と呼ばれている。 しかし土曜日の朝、彼女は地域の子ども食堂でエプロンをつけ、配膳係として汗を流す。そこ...
2026-01-15 23:02:00

失点の記憶

営業部の中堅社員、川島誠一は、三年前の記憶から逃れられずにいた。 当時、彼は新規事業チームのリーダーとして、会社の命運を賭けた大型プレゼンに臨んでいた。相手は業界最大手の製造会社。受注できれば、会社の売上は一気に三割増となる案件だった。 プレゼン当日、川島は完璧な準備をしていたはずだった。しかし...
2026-01-15 22:35:25

三百のメモ

佐伯誠一は、付箋の山を見つめていた。 パソコンのモニター周りに貼られた黄色い紙片は、もう数えきれないほどになっている。「顧客データの可視化ツール」「営業日報の自動要約」「新人研修のオンライン化」——どれも会議中や通勤電車の中で思いついたアイデアだった。 「佐伯さん、また増えましたね」 後輩の村...
2026-01-15 22:15:24

評論家の席

三十四歳の須藤健一は、営業企画部のデスクで資料を眺めながら、今日も何かが違うと感じていた。 大学時代は弁論部の部長として全国大会に出場し、入社後も三年連続で新人賞を受賞した。同期の中では出世頭と言われ、二十代の終わりには課長補佐に抜擢された。誰もが彼の将来を期待していた。 だが、三十歳を過ぎた頃...
2026-01-15 21:45:20

谷底の営業部長

営業第三部の部長・宮本隆司は、自席のパソコン画面を見つめたまま動けなくなっていた。 午前中に人事部長から告げられた内容が、まだ頭の中で反響している。「来期の組織改編で、営業第三部は統合対象です。宮本さんには関連会社への出向を打診したい」 五十二歳。入社三十年。気づけば、会社に必要とされない人間に...
2026-01-13 22:13:20

ツキを呼ぶ男

総務課の窓際に座る五十嵐哲也は、社内で「ツイていない男」として知られていた。入社十五年、異動の話が出るたびに直前で白紙になり、担当したプロジェクトは軒並み頓挫し、昨年は財布を三回も落とした。 「また外れたよ、社内ビンゴ」 五十嵐がため息をつくと、隣の席の若手、河野が苦笑した。 「五十嵐さん、い...
2026-01-09 08:11:00

カメ組の名刺

入社七年目の春、藤原健一は自分のデスクで名刺を眺めていた。「営業三課 主任 藤原健一」。肩書きは三年前から変わっていない。同期の村田はすでに課長代理だ。 「藤原さん、会議室空いてます」 後輩の山下が声をかけてきた。今日は新規プロジェクトのプレゼン担当を決める会議だ。 会議室に入ると、課長の田中...
2026-01-08 17:21:00

黄色いノート

三好修平は、自分の机の引き出しに手を突っ込んだまま、動けなくなっていた。 十二年前の手帳が出てきたのだ。黄ばんだページをめくると、若い頃の乱雑な字が目に飛び込んできた。 「自分のブランドを持つ」 その一行が、胸に刺さった。 三好は大手アパレルメーカー「クロスウェア」の営業部長だった。四十五歳...
2026-01-06 11:52:04

「今日、何を聞いた?」

営業企画部の課長・高梨誠一は、部下たちの顔を見渡しながら額に手を当てた。 「なぜ誰も質問しないんだ」 新製品のマーケティング会議が終わった直後のことだった。本部長からの説明を聞いている間、高梨は何度か振り返った。だが、八人の部下は全員、無表情でメモを取っているだけだった。 「高梨くん、君のとこ...
2025-12-29 09:35:13

対等という距離

経営企画部の新人、水野翔太は、自分が優秀だと思っていた。 入社試験は二千人中三位。有名国立大学を首席で卒業し、在学中にはビジネスコンテストで全国優勝もした。周囲の同期と比べても、自分の能力が突出していることは明らかだった。 配属されたチームには、翔太のほかに三人のメンバーがいた。リーダーの木村、...
2025-12-20 15:30:40

残りの時間

総務部の佐藤健一は、五十二歳になった朝、自分の人生を振り返っていた。 入社三十年。与えられた仕事を真面目にこなし、大きな失敗もなく、課長という肩書きを手に入れた。だが、会議室の窓から見える景色は、三十年前と何も変わっていなかった。変わったのは、自分の髪が白くなったことくらいだ。 「佐藤さん、新人...
2025-12-20 13:48:03

これでいい

人事部の会議室で、山崎理恵は自分のプレゼン資料を見つめていた。 三十四歳。入社十二年目。同期の中では出世が遅いほうだ。今回の社内公募制度で、念願だった新規事業開発室への異動を勝ち取りたい。そのための面接が、明後日に迫っていた。 「山崎さん、資料見せてもらっていいですか」 隣のデスクの後輩、高橋...
2025-12-20 13:15:55

指示待ちの壁

営業三課の課長、村瀬隆一は会議室の壁時計を見上げた。午後三時。今日も部下の佐野が報告に来ない。 「佐野、例の提案書の進捗はどうなってる」 声をかけると、佐野はびくりと肩を震わせた。入社四年目、真面目だが、いつも村瀬の指示を待っている。 「あ、はい。課長からの指示待ちでした」 「指示? 先週の...
2025-12-20 07:15:05

窓際の椅子

宮本は、カレンダーの日付を見つめた。五十三歳。入社から三十年が経とうとしていた。 「宮本さん、この資料のチェックお願いできますか」 若手の田中が遠慮がちに声をかけてきた。かつては自分も同じように先輩たちに資料を持っていったものだ。宮本は黙って資料を受け取り、デスクに置いた。 三年前、同期の中村...
2025-12-20 06:54:46

熱くなれない人

営業企画部の村瀬は、三年目にして初めてプロジェクトリーダーを任された。新規サービスの立ち上げという大役に、周囲は期待の目を向けていた。 「村瀬さん、このプロジェクトにかける想いを聞かせてください」 キックオフミーティングで、部長の木島がそう水を向けた。会議室には八人のメンバーが揃っている。村瀬は...
2025-12-20 06:54:46