社会人 16件の記事

需要の在処

中堅化粧品メーカー「彩花堂」のマーケティング部長・三島聡は、午後の会議室で壁一面のホワイトボードを見つめていた。そこには新規事業のコンセプト案が三つ並んでいる。いずれも、三島の上司である常務・大河内の肝いりで進めてきたものだ。 「若い女性の肌コンプレックスを喚起するSNSキャンペーンと連動した美白...
2026-02-20 01:19:39

声の重さ

システム開発会社ネクストウェーブで、チームリーダーの黒田俊一は六人のエンジニアを率いていた。その中で最も頼りにしていたのが、入社五年目の園田健太だった。 園田は口数こそ少ないが、納期前のトラブルでも黙々とコードを書き続け、チームを何度も救ってきた。黒田にとって園田は「放っておいても大丈夫な人間」だ...
2026-02-01 23:24:12

隣の席の距離

営業一課と営業二課の統合が決まったのは、六月の末だった。 業績の伸び悩みを背景に、会社は組織のスリム化を進めていた。統合後の新チームを率いることになったのは、営業一課の課長・片桐雅彦、四十二歳。部下は十二人になる。 片桐は統合初日、全員をひとつの島に集めた。デスクを寄せ、ホワイトボードを共有し、...
2026-01-29 16:43:58

会議室の王様

「また部長が暴走してますよ」 営業企画課の田村真紀は、隣の席の後輩・安藤に小声でささやいた。会議室のガラス越しに、腕を振り回しながら熱弁をふるう柳沢部長の姿が見える。 柳沢部長は、三年前に外部からヘッドハンティングされてきた人物だった。前職では中堅メーカーの営業本部長を務めていたという触れ込みで...
2026-01-15 23:46:33

三百のメモ

佐伯誠一は、付箋の山を見つめていた。 パソコンのモニター周りに貼られた黄色い紙片は、もう数えきれないほどになっている。「顧客データの可視化ツール」「営業日報の自動要約」「新人研修のオンライン化」——どれも会議中や通勤電車の中で思いついたアイデアだった。 「佐伯さん、また増えましたね」 後輩の村...
2026-01-15 22:15:24

評論家の席

三十四歳の須藤健一は、営業企画部のデスクで資料を眺めながら、今日も何かが違うと感じていた。 大学時代は弁論部の部長として全国大会に出場し、入社後も三年連続で新人賞を受賞した。同期の中では出世頭と言われ、二十代の終わりには課長補佐に抜擢された。誰もが彼の将来を期待していた。 だが、三十歳を過ぎた頃...
2026-01-15 21:45:20

空っぽのノート

広報部の森川真希は、画面に映る白い投稿欄を三十分も見つめていた。 「今日も何も浮かばない」 会社のSNS運用を任されて二週間。フォロワー数を伸ばせと言われたものの、投稿する内容が思いつかない。同期の田中は営業成績でトップを取り、後輩の佐藤はプロジェクトリーダーに抜擢された。自分には何もない。発信...
2026-01-14 10:31:21

谷底の営業部長

営業第三部の部長・宮本隆司は、自席のパソコン画面を見つめたまま動けなくなっていた。 午前中に人事部長から告げられた内容が、まだ頭の中で反響している。「来期の組織改編で、営業第三部は統合対象です。宮本さんには関連会社への出向を打診したい」 五十二歳。入社三十年。気づけば、会社に必要とされない人間に...
2026-01-13 22:13:20

ツキを呼ぶ男

総務課の窓際に座る五十嵐哲也は、社内で「ツイていない男」として知られていた。入社十五年、異動の話が出るたびに直前で白紙になり、担当したプロジェクトは軒並み頓挫し、昨年は財布を三回も落とした。 「また外れたよ、社内ビンゴ」 五十嵐がため息をつくと、隣の席の若手、河野が苦笑した。 「五十嵐さん、い...
2026-01-09 08:11:00

カメ組の名刺

入社七年目の春、藤原健一は自分のデスクで名刺を眺めていた。「営業三課 主任 藤原健一」。肩書きは三年前から変わっていない。同期の村田はすでに課長代理だ。 「藤原さん、会議室空いてます」 後輩の山下が声をかけてきた。今日は新規プロジェクトのプレゼン担当を決める会議だ。 会議室に入ると、課長の田中...
2026-01-08 17:21:00

黄色いノート

三好修平は、自分の机の引き出しに手を突っ込んだまま、動けなくなっていた。 十二年前の手帳が出てきたのだ。黄ばんだページをめくると、若い頃の乱雑な字が目に飛び込んできた。 「自分のブランドを持つ」 その一行が、胸に刺さった。 三好は大手アパレルメーカー「クロスウェア」の営業部長だった。四十五歳...
2026-01-06 11:52:04

刺激の檻

営業部長の沢村誠一は、四十五歳にして自分が「永遠の新規開拓者」であることに気づいていなかった。 彼の営業成績は常にトップクラスだった。新しい顧客を獲得する瞬間、沢村の目は輝いた。初対面の緊張感、相手の懐に入っていく駆け引き、そして契約成立の高揚感。その快感を求めて、彼は次々と新規顧客を開拓し続けた...
2025-12-22 11:29:38

対等という距離

経営企画部の新人、水野翔太は、自分が優秀だと思っていた。 入社試験は二千人中三位。有名国立大学を首席で卒業し、在学中にはビジネスコンテストで全国優勝もした。周囲の同期と比べても、自分の能力が突出していることは明らかだった。 配属されたチームには、翔太のほかに三人のメンバーがいた。リーダーの木村、...
2025-12-20 15:30:40

残りの時間

総務部の佐藤健一は、五十二歳になった朝、自分の人生を振り返っていた。 入社三十年。与えられた仕事を真面目にこなし、大きな失敗もなく、課長という肩書きを手に入れた。だが、会議室の窓から見える景色は、三十年前と何も変わっていなかった。変わったのは、自分の髪が白くなったことくらいだ。 「佐藤さん、新人...
2025-12-20 13:48:03

これでいい

人事部の会議室で、山崎理恵は自分のプレゼン資料を見つめていた。 三十四歳。入社十二年目。同期の中では出世が遅いほうだ。今回の社内公募制度で、念願だった新規事業開発室への異動を勝ち取りたい。そのための面接が、明後日に迫っていた。 「山崎さん、資料見せてもらっていいですか」 隣のデスクの後輩、高橋...
2025-12-20 13:15:55

熱くなれない人

営業企画部の村瀬は、三年目にして初めてプロジェクトリーダーを任された。新規サービスの立ち上げという大役に、周囲は期待の目を向けていた。 「村瀬さん、このプロジェクトにかける想いを聞かせてください」 キックオフミーティングで、部長の木島がそう水を向けた。会議室には八人のメンバーが揃っている。村瀬は...
2025-12-20 06:54:46