ビジネス寓話 記事一覧
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マニュアルの外側
総務部の吉岡真帆は、入社三年目にして社内規程の見直しプロジェクトのリーダーに抜擢された。三十二歳の彼女にとって、それは嬉しくもあり、重い任務でもあった。
きっかけは、社員アンケートだった。「社内ルールが多すぎて息苦しい」という声が、回答の四割を占めていた。服装規程、備品の使用ルール、会議室の予約手...
エースの死角
営業部のエース、鳴海拓也は今期も全社トップの成績を叩き出していた。入社七年目、三十一歳。明るい笑顔、論理的な話術、そして誰もが認める行動力。クライアントからの評判も抜群で、「鳴海さんに担当してもらえてよかった」という声が社内に届くことも珍しくなかった。
だからこそ、鳴海には不満があった。
月曜の...
十人の声
営業企画部の永瀬真紀は、自席のモニターに映った数字を見て、思わず唇を噛んだ。
参加申込数——七名。
生活雑貨メーカー「ハルノ工房」が初めて企画した顧客交流イベントまで、あと二週間。社内で大々的に告知し、SNSでも拡散したのに、反応はこの程度だった。
「永瀬さん、集まり具合はどうですか」
声を...
隣の席の距離
営業一課と営業二課の統合が決まったのは、六月の末だった。
業績の伸び悩みを背景に、会社は組織のスリム化を進めていた。統合後の新チームを率いることになったのは、営業一課の課長・片桐雅彦、四十二歳。部下は十二人になる。
片桐は統合初日、全員をひとつの島に集めた。デスクを寄せ、ホワイトボードを共有し、...
休憩室の空席
総務部の村瀬洋介は、入社三年目にして初めて異動を経験した。営業企画部から経理部への配置転換。数字を扱う仕事自体に不満はなかったが、昼休みが苦痛だった。
経理部の休憩室には、毎日決まったメンバーが集まる。五人の女性社員と二人の男性社員。弁当を広げながら、社内の人事異動の噂や、上司の愚痴、週末のテレビ...
会議室の王様
「また部長が暴走してますよ」
営業企画課の田村真紀は、隣の席の後輩・安藤に小声でささやいた。会議室のガラス越しに、腕を振り回しながら熱弁をふるう柳沢部長の姿が見える。
柳沢部長は、三年前に外部からヘッドハンティングされてきた人物だった。前職では中堅メーカーの営業本部長を務めていたという触れ込みで...
三枚の名刺
システム開発会社の課長、高橋美咲は、週末になると別人になる。
平日の彼女は、チームを率いる冷静な管理職だ。部下からの相談には的確に答え、クライアントとの折衝では一歩も引かない。社内では「鉄の女」と呼ばれている。
しかし土曜日の朝、彼女は地域の子ども食堂でエプロンをつけ、配膳係として汗を流す。そこ...
失点の記憶
営業部の中堅社員、川島誠一は、三年前の記憶から逃れられずにいた。
当時、彼は新規事業チームのリーダーとして、会社の命運を賭けた大型プレゼンに臨んでいた。相手は業界最大手の製造会社。受注できれば、会社の売上は一気に三割増となる案件だった。
プレゼン当日、川島は完璧な準備をしていたはずだった。しかし...
三百のメモ
佐伯誠一は、付箋の山を見つめていた。
パソコンのモニター周りに貼られた黄色い紙片は、もう数えきれないほどになっている。「顧客データの可視化ツール」「営業日報の自動要約」「新人研修のオンライン化」——どれも会議中や通勤電車の中で思いついたアイデアだった。
「佐伯さん、また増えましたね」
後輩の村...
評論家の席
三十四歳の須藤健一は、営業企画部のデスクで資料を眺めながら、今日も何かが違うと感じていた。
大学時代は弁論部の部長として全国大会に出場し、入社後も三年連続で新人賞を受賞した。同期の中では出世頭と言われ、二十代の終わりには課長補佐に抜擢された。誰もが彼の将来を期待していた。
だが、三十歳を過ぎた頃...
自分だけの物差し
営業部の月次会議が終わると、会議室には重い沈黙が残った。売上ランキングがスクリーンに映し出され、上位三名には拍手が送られる。一方で、下位に名前が並んだ者たちは、足早に席を立っていく。
入社三年目の川島翔太は、自分の名前が下から四番目に表示されているのを見て、小さくため息をついた。
「また、あの位...
見えない天秤
「前例がないんですよ」
人事部長の声が、会議室に重く響いた。
総合商社・三栄物産の経営企画室で、主任の園田真由美は思わず拳を握りしめた。隣に座る同期の木村健太が、気まずそうに視線を逸らす。
議題は、次期プロジェクトリーダーの選出だった。
真由美と健太は同期入社。十年間、同じ部署で働いてきた。...
冷蔵庫に貼られた数字
「中学受験をしたい」
小学五年生の美咲がそう言い出したのは、夕食の片付けをしている最中だった。
中堅メーカーで営業部長を務める山本健一は、思わず手を止めた。妻の恵子も、食器洗いの手を止めてこちらを見ている。
「友達のあかりちゃんが塾に行き始めて、すごく楽しそうなの」
美咲の瞳は輝いていた。そ...
再生回数の向こう側
瀬戸内動画制作株式会社の会議室で、企画部長の村山は腕を組んでいた。目の前のモニターには、新人クリエイターの高橋が提出した動画企画書が映し出されている。
「これ、本気で言ってるのか」
高橋は二十四歳。半年前に中途入社してきた。前職は飲食チェーンの店員だったが、個人で動画投稿を始めて小さな成功を収め...
「とりあえず」の呪い
入社三年目の春、営業部の田村健太は上司の佐藤課長に呼ばれた。
「お前、今年の目標は何だ」
「えっと、とりあえず売上を伸ばしたいですね。まずは去年より上を目指します」
佐藤は眉をひそめた。
「とりあえず、か。まずは、か」
田村は何を言われているのかわからなかった。
「お前、その言葉を使って...
空っぽの冷蔵庫
山下美和子は、末っ子の息子が家を出た日の夜、久しぶりに冷蔵庫を開けた。
三段の棚には、ほとんど何も入っていなかった。卵が三個と、賞味期限の切れた豆腐と、夫が晩酌用に買った缶ビールが二本。
「今夜、どうする?」
夫の義明が台所に顔を出した。
「外に食べに行こうか」
美和子はそう答えた。二十五...
椅子のない部屋
川島誠一は、入社二十三年目の春に、自分の席がなくなっていることに気づいた。
出張から戻った月曜の朝、いつものフロアに上がると、見慣れたパーティションの配置が変わっていた。彼のデスクがあった場所には、フリーアドレス用の共有テーブルが置かれている。
「川島さん、三階の会議室Bに荷物まとめてあります」...
空っぽのノート
広報部の森川真希は、画面に映る白い投稿欄を三十分も見つめていた。
「今日も何も浮かばない」
会社のSNS運用を任されて二週間。フォロワー数を伸ばせと言われたものの、投稿する内容が思いつかない。同期の田中は営業成績でトップを取り、後輩の佐藤はプロジェクトリーダーに抜擢された。自分には何もない。発信...
谷底の営業部長
営業第三部の部長・宮本隆司は、自席のパソコン画面を見つめたまま動けなくなっていた。
午前中に人事部長から告げられた内容が、まだ頭の中で反響している。「来期の組織改編で、営業第三部は統合対象です。宮本さんには関連会社への出向を打診したい」
五十二歳。入社三十年。気づけば、会社に必要とされない人間に...
顔の向こう側
中堅IT企業ネクサスの人事部長・津田康彦は、最終面接に残った四人の候補者の履歴書を眺めながら、胃の辺りが重くなるのを感じていた。
新規プロジェクトのリーダー候補として、経営陣からは「将来の幹部になれる人材を」と厳命されている。しかし四人とも甲乙つけがたい経歴の持ち主だった。
「津田さん、ちょっと...
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