モチベーション 7件の記事

模範の代償

伊東製作所のシステム開発部には、「天才」と呼ばれる男がいた。  桐生隆志。三十八歳。入社十五年目にして、社内の基幹システムを事実上一人で設計し直した伝説の持ち主だ。朝は誰よりも早く来て、夜は誰よりも遅く帰る。だが桐生の顔にはいつも笑みがあった。コードを書くことが好きで、難問を解くことに喜びを感じ、...
2026-03-26 16:24:30

休まない男

営業三課の課長・村瀬隆は、毎朝六時に出社し、夜十時まで席を立たない男として社内で知られていた。 「村瀬さんって本当にストイックですよね」 後輩の木下がそう言うたびに、村瀬は曖昧に笑ってやり過ごした。実際のところ、村瀬自身はストイックだと思ったことは一度もない。ただ、営業先の課題を解く方法を考える...
2026-03-07 03:39:27

止まれない男と、立ち止まった男

営業部の朝礼が終わると、課長の片桐は自席でため息をついた。 今期、部内のSNS施策を任された若手の宮本が、また問題を起こしていた。自社のビジネスアカウントに、競合他社を名指しで揶揄する投稿を上げたのだ。 「片桐さん、見ましたか。リツイートが三千超えてますよ」 宮本は端末の画面を見せながら笑って...
2026-02-20 16:29:05

カメ組の名刺

入社七年目の春、藤原健一は自分のデスクで名刺を眺めていた。「営業三課 主任 藤原健一」。肩書きは三年前から変わっていない。同期の村田はすでに課長代理だ。 「藤原さん、会議室空いてます」 後輩の山下が声をかけてきた。今日は新規プロジェクトのプレゼン担当を決める会議だ。 会議室に入ると、課長の田中...
2026-01-08 17:21:00

指示待ちの壁

営業三課の課長、村瀬隆一は会議室の壁時計を見上げた。午後三時。今日も部下の佐野が報告に来ない。 「佐野、例の提案書の進捗はどうなってる」 声をかけると、佐野はびくりと肩を震わせた。入社四年目、真面目だが、いつも村瀬の指示を待っている。 「あ、はい。課長からの指示待ちでした」 「指示? 先週の...
2025-12-20 07:15:05

窓際の椅子

宮本は、カレンダーの日付を見つめた。五十三歳。入社から三十年が経とうとしていた。 「宮本さん、この資料のチェックお願いできますか」 若手の田中が遠慮がちに声をかけてきた。かつては自分も同じように先輩たちに資料を持っていったものだ。宮本は黙って資料を受け取り、デスクに置いた。 三年前、同期の中村...
2025-12-20 06:54:46

熱くなれない人

営業企画部の村瀬は、三年目にして初めてプロジェクトリーダーを任された。新規サービスの立ち上げという大役に、周囲は期待の目を向けていた。 「村瀬さん、このプロジェクトにかける想いを聞かせてください」 キックオフミーティングで、部長の木島がそう水を向けた。会議室には八人のメンバーが揃っている。村瀬は...
2025-12-20 06:54:46