主体性
5件の記事
水曜日の空白
第一水曜日の午後二時。営業企画部の早瀬は、分厚い資料の束を抱えて第三会議室へ向かっていた。月例の部内会議は二時間。各課の数字を順番に読み上げ、質問はほとんど出ない。終わるころには夕方で、顧客に出す提案書は今夜も手つかずのまま持ち帰ることになる。
早瀬には、温めている企画があった。取引先の小さな工務...
誰の時間か
村田誠一は、仕事ができる男として知られていた。
食品メーカーのマーケティング部で十五年、一度も大きな失敗をしたことがなかった。上司の意図を素早く汲み、数字を積み上げ、社内外の調整を丁寧にこなしてきた。三十代後半にはグループリーダーの肩書を得て、評価シートには毎年「安定感がある」と書かれた。悪くはな...
謝らない人
広報部の主任・三島奈央は、自分が出した社内報の誤記について、月曜の朝から対応に追われていた。
取引先の社名を一文字間違えた。それだけのことだった。気づいたのは金曜の夕方で、すでに全社員のメールボックスに配信済みだった。週末のうちに修正版を用意し、月曜朝いちばんで訂正メールを出した。同時に、該当の...
残りの時間
総務部の佐藤健一は、五十二歳になった朝、自分の人生を振り返っていた。
入社三十年。与えられた仕事を真面目にこなし、大きな失敗もなく、課長という肩書きを手に入れた。だが、会議室の窓から見える景色は、三十年前と何も変わっていなかった。変わったのは、自分の髪が白くなったことくらいだ。
「佐藤さん、新人...
指示待ちの壁
営業三課の課長、村瀬隆一は会議室の壁時計を見上げた。午後三時。今日も部下の佐野が報告に来ない。
「佐野、例の提案書の進捗はどうなってる」
声をかけると、佐野はびくりと肩を震わせた。入社四年目、真面目だが、いつも村瀬の指示を待っている。
「あ、はい。課長からの指示待ちでした」
「指示? 先週の...