イノベーション
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十二階の窓
三ツ輪工機の本社十二階、会議室「桐」の窓は、建てられた日から同じ角度までしか開かない。鹿野俊介は、その細い隙間から入る風を背中に受けて、社長の板東と向かい合っていた。
「鹿野くん。うちの売り場は、この三十年で何が変わった」
「……厨房機器そのものは、ずいぶん良くなりました。洗浄機の水量は半分以下...
水曜日の落書き帳
ホシノ電工には、水曜の朝までに社内掲示板へ新しい商品の案をひとつ書く、という決まりがあった。社員三十四人、全員が対象。ただし役員は書かないし、読まない。それが十年続いている。
企画課の宮下志保は、その掲示板が好きだった。好きだったが、この一年は苦しかった。彼女の書いた案はどれも「面白いね」で流れ、...
捨てなかった一台
高村製作所の試作課で、相田は一台の機械のスイッチを切った。導入してまだ三か月、期待の新型だった。一枚の原型から二十通りの試作を一気に起こせる——営業がそう言うから飛びついた。だが仕上がる部品は、どれも角が甘く、量産品のような安っぽい肌になった。手元の一枚が持っていた張りのある質感が、機械を通すたびに...
終いの名刺
山本 拓也は、駅前の雑居ビルの一室で「事業撤退支援コンサルタント」を名乗っていた。
看板の文字は太いゴシック体で、雨の日も晴れの日も通りすがりの人の目に入るよう設えてあった。開業して四年になるが、地元商工会の古参会員たちは今でも顔をしかめる。
「山本くん、少し前向きな名前にしてはどうかね」と理事...
平台のない店
高野真澄は、創業四十年の老舗スーパー「丸高」の三代目として、二年前に社長に就任した。父から引き継いだ店舗は堅実な経営を続けていたが、近隣に大型ショッピングモールが開業して以来、客足は確実に減っていた。
月曜の朝礼で、真澄は営業部長の大島に問いかけた。
「先月のデータ、見ましたか。来店客数が前年...
逃げ道という名の滑走路
入社十五年目の春、宮田智也は開発本部の窓際席で、真新しい辞令を眺めていた。
「北海道支社への異動ね」
開発本部長の声が、フロア全体に響いた。表向きは「新拠点の立ち上げ要員」だが、誰もが知っていた。先月の新製品プレゼンで、宮田が役員の方針に異を唱えたことへの報復だと。
「受けるしかないよな」
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