ものづくり
5件の記事
水曜日の落書き帳
ホシノ電工には、水曜の朝までに社内掲示板へ新しい商品の案をひとつ書く、という決まりがあった。社員三十四人、全員が対象。ただし役員は書かないし、読まない。それが十年続いている。
企画課の宮下志保は、その掲示板が好きだった。好きだったが、この一年は苦しかった。彼女の書いた案はどれも「面白いね」で流れ、...
普通でいいんだよ
郷田真希が白河産業のブランドマネージャーに任じられた日、上司は一枚の折れ線グラフを見せた。台所用洗剤「まいにち」。二十五年間、ほとんど水平な線だった。
「悪くない。でも、話題がない」と上司は言った。「君の代で、何か起こしてほしい」
何かを起こす。郷田はその言葉を待っていた気がした。前の部署では新...
捨てなかった一台
高村製作所の試作課で、相田は一台の機械のスイッチを切った。導入してまだ三か月、期待の新型だった。一枚の原型から二十通りの試作を一気に起こせる——営業がそう言うから飛びついた。だが仕上がる部品は、どれも角が甘く、量産品のような安っぽい肌になった。手元の一枚が持っていた張りのある質感が、機械を通すたびに...
その音は、誰のために鳴っているのか
楓プロダクツのオフィスは、いつも誰かのプレゼンの声で賑わっていた。
中堅デザイナーの三宅は、自分が見せ場を嫌う人間だとは思っていない。良い案を堂々と語るのは仕事のうちだ。ただ、新製品コンペが近づくにつれ、胸の奥がざらつくのを抑えられずにいた。
ざらつきの源は、若手のエースである倉田だった。倉田の...
遅れてくる拍手
生活雑貨メーカー「コハル製作所」の小さな企画室で、佐倉はノートパソコンの数字をにらんでいた。三か月前、満を持して世に出したカトラリーのシリーズ。削り出しの柄に、半年かけて磨いた曲線が宿っている。自信はあった。あったからこそ、画面の数字が刺さった。
販売数、先週ゼロ。今週も、ゼロ。
「いいものなん...