学び直し
4件の記事
棚を歩く人
「理由は三つあります」
佐伯遥斗がそう切り出すと、会議室の空気が少しだけ締まる。文具メーカー・丸野文具の企画部で六年目。話し方の本で覚えたこの型を、彼は武器にしてきた。第一に、第二に、第三に。言い切って、以上です。それだけで「仕事ができる人」に見える。
その日の議題は、彼が温めてきた新商品だった...
階段の段数
会議室の椅子は、二十脚のうち十六脚が空いていた。
北星テクノの主任研究員・鏑木遼は、スクリーンに映した周波数特性のグラフを見つめたまま、数秒だけ黙った。三か月前、新型振動センサー「MR-7」の社内勉強会を始めたときは、立ち見が出るほどだった。四回目の今日、来ているのは営業部の若手が三人と、サポート...
教科書は、最後のページから
常盤精機の営業企画課長・宮下弘之のデスクには、背表紙の折れた統計学の入門書が三冊、立てて並べてあった。買ったのは春で、いまは秋だ。しおりは三冊とも、第二章の途中で止まっている。
会社は産業用ポンプを四十年つくってきた。売って、納めて、終わり。そういう商売だった。ところが去年、いちばん大きな取引先が...
下地のはなし
「正直、要件は単純なんです。売上をリアルタイムで見られるダッシュボード。それだけ作ってもらえれば」
会議室の長机の向こうで、川端工業の社長は早口にそう言った。創業四十年の町工場。最近、息子に専務を譲ったばかりで、社長自身は会長職への移行が決まっている。
聞いていた真鍋は、メモを取る手を止めた。フ...