人事
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勘定科目にない資産
産業用センサーをつくる東和テクノで、品質保証部の八木誠一が退職願を持ってきたのは、期末の山を越えた火曜の午後だった。
「一身上の都合ということで、お願いします」
八木は白い封筒を机に置くと、それ以上何も言わなかった。課長の沢渡は封筒を裏返したり戻したりしながら、この十年で八木と交わした会話の総量...
本棚のない部屋
三月の第二週、青葉フーズシステムズの会議室には、最終面接に残った十四人分の評価シートが並んでいた。
人事課長の宮下は、その紙の束を前にして、去年と同じ違和感を覚えていた。上位に並ぶ名前が、去年と、そのまた去年と、驚くほど似た顔ぶれに見えるのだ。出身校ではない。話し方だ。彼らは一様に、間の取り方が...
履歴書に書けなかった一行
三雲フーズの新規事業室は、社内で「離れ小島」と呼ばれていた。本社ビルの七階、ワンフロアの隅を間仕切りで区切っただけの、八人の部署である。室長の宮下佳子が二年前にこの部屋を任されたとき、上から与えられた条件はひとつだけだった。
「三年で新しい柱を作れ。人はひとりだけ、好きに採っていい」
宮下が選ん...
差引支給額の下に
相原詩織が総務課に配属されて最初に渡されたのは、A4の紙が一枚だけ入ったクリアファイルだった。給与明細の問い合わせ対応マニュアル。手順は三つしか書かれていない。
「楽な担当だよ」課長の柴田は、自席から振り返りもせずに言った。「月に五件来れば多いほうだ。振込額が合っていれば、誰も何も言ってこない」...
欠けた歯車の音
朝九時、藤沢の内線が鳴った。名乗ったのは、聞いたことのない会社名だった。「三宅様の代理でご連絡しています。本日より当面のあいだ、就業を控えられるとのことです」。声は事務的で、三宅本人の言葉は一度も出てこなかった。診断書は追って郵送する、それだけ告げて電話は切れた。
三宅の席は、藤沢の斜め向かいにあ...
その基準で、何を測っているのか
神谷良介は、採用選考委員会の資料を静かに閉じた。
「山田さん、出身大学を見ましたか。うちの基準には届かない」
総務部長の堀口が、老眼鏡ごしに言った。堀口はこの会社に三十年いる。帝国大卒、経営企画出身。自他ともに認める「うちの採用文化の守り手」だった。来年は定年が近い。自分がそれまで守り続けてきた...
顔の向こう側
中堅IT企業ネクサスの人事部長・津田康彦は、最終面接に残った四人の候補者の履歴書を眺めながら、胃の辺りが重くなるのを感じていた。
新規プロジェクトのリーダー候補として、経営陣からは「将来の幹部になれる人材を」と厳命されている。しかし四人とも甲乙つけがたい経歴の持ち主だった。
「津田さん、ちょっと...