営業
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三つ目の「なぜ」
業務用厨房機器メーカー、ミナカタ製作所の営業企画課で、岸本遥は資料の最終ページを睨んでいた。
主力の食器洗浄機「クリーンエース」の売上が、三期連続で落ちている。来週の部長会で、その原因と打ち手を報告するのが遥の役目だった。入社六年目、初めて任された大きな報告だ。ここで認められれば、新製品の企画チー...
宛先違い
森下沙耶の名刺入れには、いつも「特別」が入っていた。
中堅の業務システム会社、ハルカゼ・システムズの営業三課。彼女の担当顧客は十二社あり、そのすべてが「森下さんは、うちを一番に考えてくれている」と信じていた。
「御社だけに先にお見せします」「この条件は、社内でもかなり無理を通しました」。言葉の...
二割の口
沼田健吾は、雑談を在庫だと思っていた。持っていても金にならず、置き場所だけ食う。
業務用厨房機器の商社・西尾テクノに入って七年。担当する既存客は四十社。更新のタイミングは外さないし、見積もりは誰より速い。四半期の数字はいつも中の上。それで十分だと思っていた。
不満があるとすれば、新規開拓の目標が...
受け取る力
吉川俊介は、今年で十七年目の営業マンだった。部長職に就いてから五年、彼の頭の中にあるのは常に「数字」だった。
月初めのミーティングで彼が口にするのは決まって億単位の話だった。「三億の案件が動いている」「競合に五億を取られた」。それ以下の規模の話が出ると、吉川はノートパソコンに目を落とし、すでに別...
帆柱の営業課長
田所は、提案資料を閉じる手を止めた。スマホには、半年前まで担当していた旧クライアントの社長、岡部からの誘いが届いている。
「来月、福岡で役員会がある。終わりに私の親しい役員も交えて夕食を、と思っているんだ。費用は気にせず来てくれ、というわけにはいかんが、来てもらえるなら、おそらく次の案件は田所さんに...
「とりあえず」の呪い
入社三年目の春、営業部の田村健太は上司の佐藤課長に呼ばれた。
「お前、今年の目標は何だ」
「えっと、とりあえず売上を伸ばしたいですね。まずは去年より上を目指します」
佐藤は眉をひそめた。
「とりあえず、か。まずは、か」
田村は何を言われているのかわからなかった。
「お前、その言葉を使って...
刺激の檻
営業部長の沢村誠一は、四十五歳にして自分が「永遠の新規開拓者」であることに気づいていなかった。
彼の営業成績は常にトップクラスだった。新しい顧客を獲得する瞬間、沢村の目は輝いた。初対面の緊張感、相手の懐に入っていく駆け引き、そして契約成立の高揚感。その快感を求めて、彼は次々と新規顧客を開拓し続けた...