自己決定
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自分の時計で
西條雅人は、今日も昼少し前に仕事を始めた。
事務所と言っても、地方都市の雑居ビルの三階を借りているだけだ。一部屋に机が二つ、本棚が三つ。もう一つの机には誰も座らない。従業員を雇ったことは一度もなく、すべての仕事を一人でこなしている。クライアントは近隣の中小企業ばかりで、月商は安定しているが、特に大...
誰の時間か
村田誠一は、仕事ができる男として知られていた。
食品メーカーのマーケティング部で十五年、一度も大きな失敗をしたことがなかった。上司の意図を素早く汲み、数字を積み上げ、社内外の調整を丁寧にこなしてきた。三十代後半にはグループリーダーの肩書を得て、評価シートには毎年「安定感がある」と書かれた。悪くはな...
地図のない航海
三崎誠一は、明和食品の営業企画部で三十二年間働いてきた。来月で五十七歳になる。
「三崎さん、例の件ですが」
隣の席の若手、田村が声をかけてきた。新規取引先との契約書類のことだ。三崎が下準備をし、田村が仕上げる。かつては逆だったが、役職定年で課長の肩書を外してからは、こうした補佐的な仕事が増えた。...
逃げ道という名の滑走路
入社十五年目の春、宮田智也は開発本部の窓際席で、真新しい辞令を眺めていた。
「北海道支社への異動ね」
開発本部長の声が、フロア全体に響いた。表向きは「新拠点の立ち上げ要員」だが、誰もが知っていた。先月の新製品プレゼンで、宮田が役員の方針に異を唱えたことへの報復だと。
「受けるしかないよな」
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