聞く力
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二割の口
沼田健吾は、雑談を在庫だと思っていた。持っていても金にならず、置き場所だけ食う。
業務用厨房機器の商社・西尾テクノに入って七年。担当する既存客は四十社。更新のタイミングは外さないし、見積もりは誰より速い。四半期の数字はいつも中の上。それで十分だと思っていた。
不満があるとすれば、新規開拓の目標が...
既知という名の壁
月曜の朝、営業部の田原は淹れたばかりのコーヒーを口に運びながら、入社三年目の木下の話を聞いていた。
「先方の購買部長、最初は鉄壁だったんです。でも雑談で奥さんが釣り好きだって話題になって、それから空気がふっと変わって——」
「ああ、それは典型だな。雑談で懐に入る、新人研修でも教えてるやつだ」
田...
聞くだけの男
深谷誠は、部下の話を聞くのが好きだった。
正確に言えば、好き嫌いの問題ではなく、そうなってしまうのだ。新入社員の不安も、中堅社員の愚痴も、取引先の世間話も、深谷の前に座ると人はなぜか饒舌になる。営業部の三課で課長を務めて六年になるが、成績はいつも中の上。飛び抜けた数字を叩き出すわけでもない。ただ、...