習慣化 4件の記事

検問所

三ツ輪食品の企画部には、暗黙の作法があった。会議で最初に口を開くのは部長の郷田、最後にまとめるのも郷田。あいだの四十分は、頷きの時間だ。 柏木葉子は入社十四年目の課長代理で、その四十分の作法にかけては部内で一番の腕前だった。角度も、間の取り方も、心得ている。頷きながら、頭の別のところで「本当は違う...
2026-07-20 12:54:05

遅れてくる拍手

生活雑貨メーカー「コハル製作所」の小さな企画室で、佐倉はノートパソコンの数字をにらんでいた。三か月前、満を持して世に出したカトラリーのシリーズ。削り出しの柄に、半年かけて磨いた曲線が宿っている。自信はあった。あったからこそ、画面の数字が刺さった。 販売数、先週ゼロ。今週も、ゼロ。 「いいものなん...
2026-06-05 06:58:31

冷蔵庫に貼られた数字

「中学受験をしたい」 小学五年生の美咲がそう言い出したのは、夕食の片付けをしている最中だった。 中堅メーカーで営業部長を務める山本健一は、思わず手を止めた。妻の恵子も、食器洗いの手を止めてこちらを見ている。 「友達のあかりちゃんが塾に行き始めて、すごく楽しそうなの」 美咲の瞳は輝いていた。そ...
2026-01-15 19:29:34

「とりあえず」の呪い

入社三年目の春、営業部の田村健太は上司の佐藤課長に呼ばれた。 「お前、今年の目標は何だ」 「えっと、とりあえず売上を伸ばしたいですね。まずは去年より上を目指します」 佐藤は眉をひそめた。 「とりあえず、か。まずは、か」 田村は何を言われているのかわからなかった。 「お前、その言葉を使って...
2026-01-15 17:20:06