フリーランス
5件の記事
誰の時間か
村田誠一は、仕事ができる男として知られていた。
食品メーカーのマーケティング部で十五年、一度も大きな失敗をしたことがなかった。上司の意図を素早く汲み、数字を積み上げ、社内外の調整を丁寧にこなしてきた。三十代後半にはグループリーダーの肩書を得て、評価シートには毎年「安定感がある」と書かれた。悪くはな...
窓際の灯
中堅機械商社の情報システム室は、フロアの一番奥にあった。山岸かおるは三十五歳、入社十年目で、長らく社内の発注画面の細かな改善を一人で担ってきた。「ここに一行コメント欄があると現場が助かる」「この検索は曖昧マッチでないと使われない」――そういう声を拾っては、夜中にこっそり手を入れる。利用者からの礼が、...
下地のはなし
「正直、要件は単純なんです。売上をリアルタイムで見られるダッシュボード。それだけ作ってもらえれば」
会議室の長机の向こうで、川端工業の社長は早口にそう言った。創業四十年の町工場。最近、息子に専務を譲ったばかりで、社長自身は会長職への移行が決まっている。
聞いていた真鍋は、メモを取る手を止めた。フ...
ふたつの地図
金曜の午後、都内のコワーキングカフェは客がまばらだった。森田俊介は、地方で撮った映像をラップトップに流しながら、編集点が決められずにいた。町工場の三代目がインタビューの最後に見せた、照れくさそうな笑顔。そこにどうテロップを添えるか、三週間前の自分なら即決していたはずなのに、今日は手が止まる。
三年...
休まない男
営業三課の課長・村瀬隆は、毎朝六時に出社し、夜十時まで席を立たない男として社内で知られていた。
「村瀬さんって本当にストイックですよね」
後輩の木下がそう言うたびに、村瀬は曖昧に笑ってやり過ごした。実際のところ、村瀬自身はストイックだと思ったことは一度もない。ただ、営業先の課題を解く方法を考える...