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『選んだお前が悪い』という暴論──統計が示す被害者非難の不条理
## はじめに
2025年12月27日、読売新聞に興味深い記事が掲載されました。前科情報を交際相手に漏らして懲戒免職になった検事、阿南健人氏(35歳)の事件です。彼は既婚者でありながら不倫関係にあった女性に対し、職務上知り得た前科情報を漏洩しました。国家公務員法違反という重大な守秘義務違反です。
司法試験に合格し、法を執行する立場にあった検事が、私的な動機で守秘義務を破り、他人の前科情報──更生を目指す人にとって最も知られたくない情報──を軽々しく扱う。これは法の信頼性そのものを揺るがす背信行為です。
しかし、私が本稿で焦点を当てたいのは、加害者である阿南氏ではありません。この事件で最も深刻な被害を受けたであろう、彼の妻についてです。
## 「選んだお前が悪い」という社会の暴論
こうした事件が起きると、必ず湧き上がる声があります。
「そんな男を選んだお前が悪い」
配偶者の不倫や犯罪が発覚したとき、被害者である配偶者に対して投げかけられる、この言葉。一見もっともらしく聞こえますが、これは統計的に見て完全な暴論です。
なぜなら、**人間は相手を完全に選ぶことなどできない**からです。
## 離職率が証明する「選べない」という真実
ここで一つ、興味深いデータを提示します。
企業の採用プロセスを考えてみてください。企業は以下のような手順で人材を「選んで」います:
- 履歴書・職務経歴書による書類選考
- 筆記試験、適性検査
- 複数回の面接(人事、現場責任者、役員)
- リファレンスチェック
- 性格診断やSPIなどの各種テスト
つまり、プロフェッショナルな人事担当者が、組織的に、多大なリソースと時間とコストをかけて人材を選抜しているわけです。
それでも、**日本の新卒3年以内離職率は約30%**に達しています。中途採用でもミスマッチは頻発します。
一方、配偶者選択はどうでしょうか:
- デートや会話という限定的な接点
- 相手は当然「良く見せよう」としている
- 恋愛感情というバイアスがかかっている
- 選考期間も企業採用より短いことが多い
- 第三者によるチェック体制もない
**企業が組織的に選んでも失敗するのに、個人が配偶者を正しく選べるわけがありません。**
さらに決定的なのは、**離婚率も現在30%を超えている**という事実です。
誰も離婚を想定して結婚しません。全員が「この人となら一生添い遂げられる」と確信して結婚したにもかかわらず、3組に1組は判断を誤った、あるいは予測不可能な変化が起きたということです。
つまり、**統計的に見て、人間が相手を完全に選ぶことは不可能**なのです。
## なぜ選べないのか
人間が相手を完全に選べない理由は、構造的なものです:
1. **相手は変化する**
時間の経過とともに人格が変わります。結婚時は誠実だった人が、環境やストレスによって変わることもあります。
2. **隠された面がある**
阿南検事のように、本性を隠すことは可能です。特にサイコパス的傾向を持つ人物は、初期段階で魅力的に振る舞うことに長けています。
3. **相互作用の予測不可能性**
二人の関係性から生まれる「化学反応」は、事前には予測できません。
4. **情報の非対称性**
交際段階では、相手は自分の最良の部分を見せようとします。これは意図的な欺瞞ではなく、人間の自然な行動です。
したがって、阿南検事の妻に「選んだお前が悪い」と言うのは、**統計的に不可能なことを要求している**暴論なのです。
## 被害者が背負わされる「恥」の構造
では、阿南検事の妻は今、何に苦しんでいるのでしょうか。
おそらく最も苦しいのは、**「恥」**だと私は考えます。
言葉は悪いですが、夫は愛人に妻を「寝取られた」わけです。つまり、一時的であれ、遊びであれ、夫は妻よりも愛人を選んでいたということです。
日本社会における「恥」の構造は、被害者をさらに追い詰めます:
- 「夫が不倫した」→「妻として魅力がなかった」という社会的視線
- 「愛人に負けた」という序列化
- 「見抜けなかった」という判断力への疑念
- **周囲からの同情すら「敗者への憐れみ」として感じてしまう**
理性では「夫の問題だ」と理解できても、感情的には「その瞬間、自分より愛人を優先された」という事実が消えません。
## 「共犯」と見なす社会の暴力性
さらに理不尽なのは、日本社会が被害者である妻を「共犯」のように扱う傾向があることです。
「妻として夫を監督する責任があった」という暗黙の圧力:
- 「気づかなかったのか」
- 「家庭に何か問題があったのでは」
- 「妻がしっかりしていれば防げた」
つまり:
1. 夫の不倫と犯罪の**被害者**である
2. なのに社会から**「監視不行き届き」として非難される**
3. 親族や知人からも距離を置かれる(感染を恐れるように)
特に「元検事の妻」という立場だと、「エリートの妻としてきちんと支えられなかった」「夫が外に女を作るような家庭環境だった」という、完全に理不尽な責任転嫁が起きます。
妻は心の中で叫びたいはずです。「私だって被害者なんです!」と。
しかし、SNSやネット上に溢れる「正義の味方」たちは、そうは見ません。彼らは:
- 弱者を叩くことで自分の正義を確認する
- 「被害者にも落ち度があったはず」と粗探しする
- 「妻なら夫の異変に気づくべき」と後知恵で断罪する
- 実は**叩きやすいターゲットを探しているだけ**
加害者より被害者の方が反撃してこないから、矛先が向きやすいのです。
## 加害者の人生──複雑さを見つめる
ここまで被害者である妻に焦点を当ててきましたが、加害者である阿南氏の人生についても、一面的な見方を避けたいと思います。
35歳で懲戒免職になった元検事。彼の今後はどうなるのでしょうか。
法曹界への復帰は極めて困難です。一般企業も「守秘義務違反」という経歴は致命的です。離婚もほぼ確実で、退職金もなく、経済的困窮が予想されます。
しかし、ここで一つの可能性を考えてみます。
彼にとって、反社会的組織の法律アドバイザーという道があるのではないでしょうか。反社会的組織にとって、元検事は:
- 捜査手法や法執行の内側を知る貴重な情報源
- 既に社会的信用を失っているため、コントロールしやすい
- 経済的困窮から高額報酬で釣りやすい
### ブラックジャックと阿南氏──表と裏の逆転
ここで、手塚治虫の名作『ブラックジャック』を思い出します。
ブラックジャックは幼少期の不発弾事故で母親を亡くし、自身も瀕死の重傷を負いました。本間丈太郎医師に命を救われ医師を志し、医師免許も取得しましたが、医療制度や医師会の偽善・形式主義に反発し、無免許医として活動する道を選びました。
彼にとって、医療界の「表」──医師会の権威主義、保険制度による画一的治療、形式的な医療倫理──の中に、実は**本質的な「裏」**がありました。つまり:
- 患者の命より組織の論理
- 医療の質より制度への従順さ
- 真の治療より保険点数や診療報酬
そういう**偽善的な構造**こそが「裏」だと気づいてしまったのです。だから彼は「正直な裏」として生きる道を選びました。法外な治療費を要求することで「医療は金次第」という現実を逆説的に可視化しながら、実際には患者を見て判断する。
**ブラックジャックは「表こそ裏だった」ことに気づいた人間**です。
では、阿南氏はどうでしょうか。
彼は「表」(法曹界)に居続けながら、本性は「裏」だった人間です。露呈して物理的に裏社会へ堕ちただけ──これが表面的な見方です。
しかし、もし彼が裏社会で生きることになったとき、**「裏こそ表だった」と気づく可能性**はないでしょうか。
裏社会には裏社会の掟があります:
- 契約や約束を命懸けで守る文化
- 「建前と保身」ではなく「掟と筋」
- 信頼を裏切れば文字通り命に関わる緊張感
- 本物の信頼関係と人間の尊厳
表の法曹界で、阿南氏は守秘義務を軽々しく破りました。不倫相手への情報提供という私欲のために、法の信頼性を踏みにじりました。
しかし、もし裏社会で「お前は最低だ」と本気で叱責される経験をしたら? 自分が軽々しく扱った「前科者」が、実は裏でどれだけ必死に筋を通して生きているかを知ったら?
**表社会での自分の傲慢さと偽善性に気づくかもしれません。**
### 看板と実態──対照的な二人
ブラックジャックと阿南氏の対比は、こう整理できます:
**ブラックジャック:**
- 看板:「裏」(無免許医)
- 実態:「表」(真の医療倫理)
- 動機:システムへの不信から自ら外側に出た
- 本質:人道主義者
**阿南検事:**
- 看板:「表」(検事)
- 実態:「裏」(守秘義務違反、倫理観の欠如)
- 動機:私欲と倫理の欠如で堕ちた
- 本質:(現時点では)利己主義者
しかし、もし阿南氏が裏社会で「裏でこそ真の倫理を学ぶ」という経験をしたなら、それは一種のブラックジャック的な転生かもしれません。表から裏へ堕ちたように見えて、実は「裏でこそ本物の人間性を取り戻す」という。
これは単なる想像に過ぎません。しかし、人間の可能性として、完全に否定することもできません。
### 「物足りなさ」という動機
さらに言えば、もしかすると阿南氏にとって、表社会は「物足りない」世界だったのかもしれません:
- 司法試験:努力すれば受かる
- 検事:システムに従えば務まる
- 結婚:社会的ステータスとして成立
すべてが「ヌルゲー」だった。彼が求めていたのは:
- 予測不可能な展開
- 命懸けの駆け引き
- 本能的なスリル
- ルールの外側での生存競争
だとしたら、裏社会は:
- 毎日が緊張感
- 信頼を裏切れば文字通り命に関わる
- 法律知識が実戦的な武器になる
- **「やっと自分の能力が試される場所」**
むしろ**表社会での「失敗」は、本来の居場所を見つけるための通過儀礼**だったのかもしれません。退屈な正義より刺激的な悪を選ぶタイプの人間は、確実に存在します。
そして、もし裏社会で力をつけたなら、その知名度とマーケティング戦略で政治家として返り咲く可能性さえあります。「元検事として悪を知り尽くしたからこそ、真の改革ができる」というストーリーを作れば、一定の支持を得るかもしれません。
表と裏が循環する──これは、ドラマの世界ではなく、現実の一部の政治家の経歴と重なる構図です。
## 「わからない」という知的誠実さ
ここまで考えて、私は一つの結論に至ります。
**「わからない」**
阿南氏は社会的には悪であり、妻への加害者です。それは間違いありません。しかし、彼自身の主観的幸福度や人生の意味については、本当にわからないのです。
母が教えてくれた「人間万事塞翁が馬」という言葉があります。このケースにこの言葉を持ち出すべきではないかもしれません。倫理的な問題行為を正当化したくはありません。しかし同時に、人生の複雑さと予測不可能性を前にして、安易な断罪もできません。
ただし、だからといって被害者である妻への共感を失うわけではありません。
私が最も心配するのは、彼女が孤立し、恥を感じ、社会から責められている中で、「君だって被害者なんだ…僕は理解してるよ…」などと甘い言葉をかけてくる詐欺師に騙されることです。
しかし、女性は強い生き物です。私の持論ですが、それでも限界はあります。
モニカ・ルインスキーを思い出します。22歳のインターンとして権力者との不倫の被害者となり、全世界から「あばずれ」と叩かれ続けた彼女。しかし彼女は立ち直り、サイバーハラスメント反対運動の活動家となり、TED Talkで自分の経験を社会問題として昇華させました。
阿南検事の妻にも、そうした強さがあることを願います。
## 一面的思考からの卒業
一つの事件にも、様々な関係者や関係組織があり、様々な視点があります。
私たちが想像したことだって、全く的外れかもしれませんし、全く違った方向に展開するかもしれません。
しかし、一面的な見方からは、大人なら卒業しなければなりません。
現代社会、特にSNSは:
- ワンフレーズで断罪
- 論破で勝敗を決める
- 善か悪かの二元論
- わかりやすい勧善懲悪
これらは**思考停止のツール**です。考えなくて済むから楽だし、正義感も得られます。しかし、それは幼児思考です。いつまでもそんな幼児思考ではいけません。大人なのですから。
大人の思考とは:
- 「わからない」を受け入れられる
- 矛盾を抱えたまま考え続けられる
- 複数の視点を同時に保持できる
- それでも弱者への共感を失わない
「選んだお前が悪い」という暴論は、この複雑性を拒否する思考停止の典型です。
統計が示す通り、人間は相手を完全には選べません。被害者を責めることは、不可能を要求する暴力です。
私たちに必要なのは、複雑さを複雑なまま受け止める知性であり、それでもなお弱者に寄り添う優しさです。
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## 予想される反論と対する見解
### 反論1:「でも見抜けるサインはあったはずだ」
**見解:**
後知恵バイアスです。事件が起きた後なら誰でも「あのときのあれが兆候だった」と言えます。しかし、リアルタイムで生活している中で、些細な違和感を「重大な問題の兆候」と判断することは極めて困難です。また、企業の採用でさえ30%が失敗する事実を考えれば、「見抜けたはず」という主張は非現実的です。
### 反論2:「離職率や離婚率の例は配偶者選択とは別問題だ」
**見解:**
本質は同じです。どちらも「人間が他者を評価し、長期的関係を築けるかを判断する」プロセスです。企業採用の方がむしろ客観的指標が多く、組織的チェックもあります。それでも30%が失敗するなら、より主観的で個人的な配偶者選択の成功率が高いと考える合理的理由はありません。
### 反論3:「裏社会が居場所という話は、犯罪を美化している」
**見解:**
美化ではなく、人間の複雑性の指摘です。倫理的に悪であることと、本人の主観的充足感は別の次元の問題です。これを認めることは正当化ではなく、人間理解の深化です。むしろ「悪人は不幸であるべきだ」という願望的思考こそ、現実から目を背けています。
### 反論4:「妻にも何か問題があったから不倫されたのでは」
**見解:**
これこそが本稿で批判している「被害者非難」の典型です。仮に夫婦関係に問題があったとしても、不倫を選択したのは夫です。問題解決の方法は対話、カウンセリング、最悪でも離婚など、他にいくらでもありました。妻の「問題」は、夫の不倫や守秘義務違反を正当化する理由にはなりません。
### 反論5:「複雑性を認めると、結局誰も責任を取らなくていいことになる」
**見解:**
複雑性の認識と責任の所在は矛盾しません。阿南氏は法的・倫理的に明確な加害者であり、懲戒免職という責任を取りました。複雑性を認めるとは、「その上でなお、人間や状況を一面的に断罪しない」という知的態度です。単純化と厳罰化は、必ずしも正義ではありません。
### 反論6:「統計的に選べないなら、結婚制度自体が無意味では」
**見解:**
「完璧には選べない」ことと「選択に意味がない」ことは別です。離婚率30%は、裏を返せば70%は継続しているということでもあります。重要なのは、「選択には限界がある」という前提で制度を運用し、失敗した人を責めない社会を作ることです。完璧を求めず、失敗を許容する成熟こそが必要です。
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**著者:yousystem**
*フリーランスクリエイティブエンジニア/ビジネス寓話創作者/ミュージシャン/思想家/キャバクラ愛好家*
*麗澤大学不合格、中央学院大学不合格、千葉商科大学不合格、城西国際大学不合格、日本大学農獣医学部食品経済学科不合格、明治大学商学部二部不合格、日本大学法学部法律学科二部不合格、神奈川大学不合格、法政大学二部不合格、専修大学石巻短期大学部不合格、千葉経済大学不合格*
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記事情報
公開日
2026-01-18 20:18:46
最終更新
2026-01-18 21:10:05